一冊目 〈迷宮姫の覚醒〉
1ページ,最強の存在、顕現。
───一日目?
……
『それ』は純粋な白郡色の目を開ける。
『それ』の視界に広がるのは、
魔物たちは『それ』を見るや否や親の仇のように襲い掛かってくる。
だが───フッという音と同時に、その宿命は悉く滅ぼされた。
そして、先程微かにしたであろう音と共に恐ろしい魔物は消えていた。目を凝らせば消えた魔物であろう塵がキラキラと辺りにある蝋燭の光を反射して輝いていた。
「……」
滅亡級の魔物を大量に一掃したというありもしない御伽噺のようなことを成し遂げたはずが、そんなことは気にしない、といった風に『それ』は自分のサラサラした真っ白の髪を触った。
その髪が目障りだと思ったのか、掌の上に『
髪の毛はズドン!!という重低音を鳴らし、決して傷をつけることができないはずの
『それ』の髪型はさっきよりも随分とボーイッシュになったが、顔が美少女なので女なのか男なのか分からない容姿をしている。その容姿も、生物離れしているといえよう。
「……〈召喚〉《トアノレス》……『複製』〚服一式状態〛……」
「……ステータスオープン」
次に特殊な言葉を唱える。世界は『それ』の言葉に答え、目の前に青いプレート板が出てくる。ゆくゆくと時間が続くまで、ステータスプレートをいじり、本来書かれていたステータスプレートが書き換えられてゆく。
暫くして書き終えたステータスプレートは半透明に、青々と、『それ』の目の前に浮遊している。
「ステータス〈スキル〉表示」
淡々と、機械のようにステータスプレートは『それ』の言われるがままに変化し、そこにはこのように刻まれていた───
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
〈武術〉Lv6 〈聖魔術〉Lv4
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……」
『それ』はしばらくステータスを眺め、やがて眺めるのが飽きたのかステータスプレートはシュンとその場から忽然と消えた。
『それ』はその場から動かなくなりボケーっと呆けていると、なにかを感じ取ったかのように足元に『
***
───一日目、アサレル森林、騎士団長カムトリエ・オーバーン───
私の名は、カムトリエ・オーバーン。カイメルス王国キサラギ聖騎士団長をやっている。最近、我が国の近隣の森、アサレル森林に災害級〈Bランク〉の
そのため、我らがキサラギ聖騎士が討伐することになった。決して容易ではないが、命が下されたのなら、それを実行するのが騎士道というもの。
そして、我らは今、アサレル森林の入り口の目の前にいる。
私は皆を鼓舞するため、大きな声を張り上げ、言う。
「我ら! キサラギ聖騎士団は! 騎士神、ウェグヌブト様の意向にのっとり! 悪しき魔物!
「「「おおおおおおお!!!」」」
私の呼びかけに皆も声を上げる。
だが───
「グアアアアアアアアアア!!!!!」
突如、なにものかが咆哮を上げる。
先程、私の呼びかけに答えた他の騎士も、私の後方に視線をむけると、顔面を恐怖の色に変えていた。
私が恐る恐る後ろを向くと……そこに居たのは、群青色の鱗を持った忌まわしき竜がいた。悠然と、泰然ともいえるその立ち姿に、少なからず恐怖を覚える。
これは、
……絶望的だ。なにしろ急すぎて軍の態勢も崩れている。そして一番最悪なのはブルーワイバーンが最初に放つ魔法だ。
奴が放つ<
私たちが万全の状態で全力で結界聖法である『
しかも『
『不可能』。そんな言葉が頭を埋め尽くす。しかし、私は聖騎士団長だ。最後まで諦めてはならない。そんな気持ちが私を再び戦場へとかけ戻される。
考えはこうだ。
ギリギリまで引き付け〈スキル〉〈パリィ〉で『
〈パリィ〉は自分の技量次第だが、だいたい相手の攻撃を70%カットし、30%相手に跳ね返す。まあ、そんなことで『
決して、勝算など見いだせない。しかし、後には引けないのだ。
私はすぐさま剣を抜く。ワイバーンの魔法が出てくる口をよく見る。一瞬だ。
たった一瞬で勝負が決まる。殺すか。殺されるか。
皆も、私が剣を抜いたことで察しがついたのだろう。覚悟の目をしている。
私は、目を瞑り感覚を研ぎ澄ます。目を開けていったってどうせ見えない。無駄だ。
この間、実に1秒。
さあ、準備は整った。いつ来る……
そう思ったその刹那。
奴は『
────────────────ドン!!!!!!!!!
その刹那、凄まじい旋風が螺旋を続け、雲一つすら残さない威力の衝撃が辺りを走った。大気が震え、地面には亀裂が一瞬にして形成され、それを具現するならば、そう。天変地異が相応しい言葉だった。
何が起きた? それが率直な意見だった。
皆、個人で『
やがて風が晴れ、クレーターができていた。そして、そこには一人の……子供が立っていた。
誰だ?と混乱したが、ここは聖騎士団長として冷静を装う。
「そ、そなたは、だれだ?」
だが、そんな気持ちとは裏腹に、動揺が紛らわせていなかった。声が震える。だが、そんなことは関係もなしに目の前にいる人は淡々という。
「……クライシス」
そんな一言でさえ、圧倒されている気がした。そのことを頭の片隅に残しつつ、再度質問を投げかける。
「ブルーワイバーンは───」
「ブルーワイバーンはもういない」
心でも読めるのか、私の質問が終わる前にクライシス殿は答えた。
「い、いない?」
「うん。そう。じゃあ、またどこかで」
「ま、待ってくれ!」
クライシス殿がどこか行こうとするが、私は止める。
その言葉に反応してくれたのか、クライシス殿はゆっくりとこちらを振り向く。
そんなクライシス殿に心の中で感謝を述べつつ、私は言葉を発す。
「わ、私たちと、一緒に王国へ来てくれないか?」
「え?」
急に言われた意味も分からない一言で、クライシス殿は素っ頓狂な声を出したのだった。
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