4000兆回目の転生日記
ゆるん
プロローグ 〈本編制作の理由〉
~日記の水端~
───???年前、最高神王裁判所、情報神ラーゼ・クライシス───
「───被告神。ラーゼ・クライシスを4000兆回の転生刑に処す」
無慈悲にも、最高裁判神、マーザ・メーテルの口からそう告げられる。
神域ながらも禍々しいこの空間は、数瞬の静寂が包んでいた。
何故、俺がこんな状況に至ったか。その答えは至ってシンプルだ。
───冤罪───
最高神王裁判でも見抜けない程の犯罪。俺じゃない誰かが、俺に罪を被せてきやがった。俺は中級神。
憎い。憎い憎い憎い憎い憎い。
俺は被害者だ。何故、この転生の刑に処されるのか。意味が分からない。
転生の刑は、神未満の下等生物に転生するということだ。
全体のプライドが高い神にとっては、下等生物に転生、というのは最も重い刑だ。それに俺は4000兆回の転生。過去でも最高で100回の転生刑だ。
桁が違いすぎる。この時点でおかしいのだ。そんなこと、他の神など知っているはずだ。
俺は周りを見る。俺はみずぼらしい恰好をしているのに、周りは神聖な上品な服を着ている。
そしてこんな格好をしている俺を嘲笑っている。俺は、その瞬間に気づいた。
───ああ。俺に仲間なんていなかったんだな。
360度どこを振り向いても俺の味方はいない。
弁護神ですら、俺の味方でない。
唯一の味方と言っていい親も幼馴染も、もうここにはいない。
「被告神ラーゼ。なにか言うことはあるか?」
マーザが急かすように口を開く。最後の言葉を聞いてさっさと終わらそうとしているんだろう。俺の下にある落ちたら転生される蓋が今にも空きそうだ。
……ああ。そうだな。俺もこんな所、もう居たくもない。なら、皮肉たっぷりの言葉を聞かせてやるよ。
「……
太古に使われた
「⁉ 今すぐラーゼの転生蓋を開けろ!」
マーゼが切羽詰まった表情で側近の神に命令する。
はは。慌ててるわ。そりゃそうだわな。じゃあな。クソ神ども。
俺は縛られた身体を無理矢理解いて腕だけを脱出させる。そして中指を立てたところで、転生の蓋が開いた。
……その
姿はまさに筋肉隆々。神とは思えない漆黒のフードを被り顔は見えない。
他の神は俺に夢中で、その神など見向きもしない。
しかし、俺は分かった。
その神も、俺を見ていた。一瞬ともいえるその時間。俺とアイツの目が交差する。
その神の口角は、上がっていた。笑っていた。それはもう、無邪気な神のように。
神の見本のような白く清い純白な歯をしていた。
コイツだ。直感だが、俺の本能がそう語りかけてきた。俺を貶めたのは、コイツだと。
神ではない、神聖なオーラは纏っていたが、その本質は禍々しいものだった。
心が淀んでいて、吐き気を催す気分だ。情報を司っていた俺が思うんだから、それは正確なのだろう。
何故、俺の事を見ている神はアイツのことを見ないのだろう。
どうして、そんな目で俺を見るんだ?
その目を向けるのは、俺ではなくアイツだろう?
俺の気持ちは、先程まで憎しみの感情で埋め尽くされていたが、それよりも今はあの神についての謎や悲しみの感情の方が勝っていた。
やがて、転生の蓋が閉じる。
そして上では笑い声が聞こえていた。
その声に含まれている感情は嬉しさだったり安堵の溜息混じりだったり。
どれも、俺の転生を悲しむ者は居なかった。
やはり分かっていたが辛いものだと再認識される。
しかし、涙は流さない。
昔、そう約束したのだから。
思い浮かんだのは、よく遊んだ小さな女の子の神だ。
笑顔が可愛くて、歌も綺麗で。美しかった。
あの子は……急に居なくなった。いつの間にか、消えていた。
最後に会ったときに、なにか言っていた気がするが、もう忘れた。
神生に色んなことがありすぎて覚えていない。
もう疲れた。休もう。
暫くすると真っ暗闇の空間が表れ俺がその空間に吸い込まれていった。
***
───32
「ん……」
どこだ?ここは。俺は先程までのことを思い出す。
確か、最高神王裁判を受けて、転生蓋が開かれて……そうだ、俺は転生するんだ。
俺が立っている地面は綺麗に空を反射している水面。前を見ると水面は水平線に綺麗に広がっていた。そして紫色の木々が生えており、枝先には水色の花々が生えている。所々に黄色や青の植物がある。
空を見上げれば水の魚が泳いでいる。通常の世界ではありえない。
自然の摂理に反した美しい領域。こんなに美しい景色は見たことが無い。
「ここが、輪廻冥界領域か」
話でしか聞いたことが無かったが転生するときに訪れるといわれる伝説の領域。
青紫の太陽のように輝く月。反対側には緑の月のように淡く光る太陽。
なんともまあ不思議なところだ。心なしか俺の傷ついた心身も癒されていく気がする。
『三日後に転生が完了されます』
急に声が響き渡る。これは、なにか世界が動くときに響き渡る神よりも上位の存在、世界の管理者の声だ。会ったことはないが、どうせ碌な奴じゃないんだろう。
神の一柱も救わないんだから。
……世界の管理者の話を信じるとなると、どうやら三日後に転生されるみたいだ。
よく見ると俺の体から少しだけ光の粒子が出ている。これからどんどん透けていき、三日後には全てが透けて、ここの領域から消えてなくなり転生するのだろう。
じゃあここでなにか用意できることを探さないとな。
***
───三
あれから、三日経った。景色は相も変わらない。最初は美しいと感じていたここも、今となれば故郷と等しく感じられる。それほど、この三日間が長く感じていたのだろう。
よし、考えられることは全てやった。
後は転生後の俺に期待するしかないな。
俺の姿がどんどんと透けていき、目を凝らさないと見えないレベルにまで浸透している。まだ見ぬ未知の体験。だけど、恐怖はない。楽しみでしかない。
今から俺が行動する全ては、
俺を見下した奴らに聞こえてないだろうが、俺は絶対に
全ては、俺の為。それが俺の信念だ。
さあ、長い長い
気づけば、俺の頭まで光の粒子が届き、俺の体は完全に消滅し───
───そして俺、ラーゼは転生した───
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