あれから数ヶ月が経ったときだった。

いつも通り、病院で手続きをしているときだった。

看護師達が慌てたように通りすぎていくのだ。

看護師達が集まっていた場所を見ると見覚えのある顔があった。

そう、ほんの数ヶ月前にあった少女だ。

訳がわからないと思ったのだ。

よくよく考えればすぐにわかるものをそのときの私は唖然としてなにも考えられなかった。


「意識がありません!!心肺停止!AED急いで!!」


そんな焦ったような看護師の言葉にやっと私の意識が覚醒したような気がした。

私は慌てて近くに駆け寄るも看護師達の邪魔はすることは出来ないから遠巻きに眺めているだけだった。

医師も駆けつけその場で処置が取られる。


「…ッ」


数分、数十分が経ちもう助かる見込みがないと判断されたのだろう。

医師や看護師達がその少女を担架に乗せ、霊安室に運ばれた。


私は少女がいる霊安室を訪れた。


「……」


何を言うこともない。ただ少女が亡くなったという事実をまだ受け止められないだけだ。


「あなたの心には残れないってこういうことだったの」


あの時のように答えが帰ってくることはない。


「あの時の言葉はあなた自身のことを言っていたの」

「なぜ、それを言ってくれなかったの」

「親しい仲ではないけど、あの一瞬の間はとても楽しかったのに」


そんな言葉を独り言のように問いかけた。

私はその少女の顔を初めてじっくりと見た。

亡くなっているから当然だがやはり顔色が悪かった。それに加え、頬も少しだけ痩せこけている。

なぜ、あの時気づかなかったのだろうか。

気づいたとして何ができたのだろうか。

なんでこの少女は死ななければならなかったのだろうか。

泣きたくて仕方ないのに涙が出ないのはなぜだろうか。


「やっぱり、他人の心なんてわからないんだよ」


吐き捨てるように言った時だった。


「あなたは数ヶ月前に百合花にあったという人かしら?」


若干、目が赤い人が少女のいる霊安室に入ってきた。

顔立ちが少女にそっくりだ。母親なのだろう。


「多分、そうです」


母親は少し嬉しそうにしながら持っていた鞄の中から手紙を出して、私に渡してきた。


「百合花からあなたへと渡された手紙よ」


─────────────────────


名も知らないあなたへ


この手紙が渡されたということは私が死んでしまったと言うことでしょう。

なんて常套句を言ってみたり!

この前私が言った言葉をあなたが聞きあなたはやはり他人の心なんてわからないと思ったのかな。

これを書こうと思ったのは私にできる最後の役割だと思ったからなんだ。

私は生まれつき凄く体が弱くて生きれても数年だろうって言われて過ごしてきた。そんな中あなたが病院にほとんど毎週来ているって知った時私と同じく体が弱いのだと思ってた。

でも看護師たちに聞く限りではそうではなくて少し残念だったのを覚えているよ。

そんなあなたと屋上で会った時あなたは『なぜ生きているのだろう』と言った答えに満足に答えられなかったから手紙にも残そうと思ったんだ。

なぜ生きているのかだったよね。

私の持論でしかないけど、やっぱり死にそうになって思うのは、誰かとまだ喜びや悲しみを共有していたい、生きているということの素晴らしさを共有したいっていうことだったよ。

私はもうあなたとそんな気持ちを共有は出来ないけど、私はあなたならそんな人を見つけ出せると思ってる。

私が見つけ出せたんだから、きっとあなたも出来るよ。

       頑張って生きてね。


               佐伯百合花


─────────────────────


手紙を読んだときやっと私は涙が出てきた。

亡くなったことを受け入れ始めたのだろうか。

手紙が涙で滲まないようにしたいのに、涙が止まってくれないのだ。


止まれ、止まって───


少女からの手紙は暖かさに満ちていた。

少女が残す最後の生きる意味。

私に教えてくれた、生きる意味。



これが私の生きる原動力だから。

今度は私が誰かを救う番だね。百合花ちゃん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アキメネス 結煇 @yuzuki6

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ