なぜ生きなくてはならないのだろうか。

私がそう考え始めたのは中学へ上がってからだった。別になにか死にたいと思ったわけでもない。この現代に失望したわけでもない。

ただ呆然と「死にたい」と思ったのだ。


ただただ親の言うことに従う人生だった私は通院中にとある少女と出会った。


「あなたそこでなにしているの」


病院の屋上で街をぼーっと眺めていた私に声をかけてきた少女がいた。


「……別に」


無愛想に答えてしまった。

その少女は無愛想に答えた私に近づいてきた。

別に何をするわけでもなく、ただ黙って隣に来たのだ。

そんな少女に私は問いたくなった。


「……人間ってなんで生きているんだろうか」


独り言のように小さな声で言った言葉に少女はこんな風に返した。「わからない」と。


「でも、生きているって素晴らしいと思う。何をするわけでもなく、ただ存在しているということがなによりも尊いと思うよ。」


尊い───そんな大層な言葉に私は違和感を覚えた。


「なんで」


「ありきたりの言葉だけど、生きたくても生きれない人もいるし、未々元気な人が突然死んでしまうこともあるし、死にたいけどただ呆然と生きている人もいる。死にたくないっていうのは誰かの心に残りたいってことでしょ。」


『誰かの心に残りたい』、確かにそうかもしれない。

生きる意味を見出だせず、『産まれなければ良かったのに』と考える毎日。

私の心は私だけしか知らない。その人が私をどう思っているのか知らない。

未知の存在でしかない。だからこそ、私はその人の心に残りたかったのだ。


「心に残りたい……」


「あなたはいるの。そんな人。」


パッと思い付く人物はいなかった。親も友人も親しいと言える程の仲かわからないからだ。


「わからない。でも、あなたの心には残っても良いかもしれない。」


私が初めて心の内をさらしてみたくなった人。

この日初めて会い、ほんの十数分しか経ってない。この少女に。


「あはは、私は無理だよ。ごめんね」


そんな言葉を残し、少女は屋上から出ていってしまった。

なぜ無理と言われたのだろうか。なぜ、謝られたのだろうか。

そのときの私はわからないままだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る