アンノウン・トレード

@mename777

爆発


何事にも対価が必要だ。それは覆ることの無い、絶対的なルール。

それがどれだけ重くても、支払わなければならない。


*************



「ね、茉莉はもう大学決めた?」

「うーん……まだ全然。玲奈は?」

私は朝田茉莉。高校2年生。この茶髪にショートの、笑顔が似合う女の子が佐々木玲奈。昔からの友達だ。私たちは部活を終え、帰り道で自分たちの進路のことについて考えていた。

「あたしは咲花福祉大学かな。いまんとこだけど」

「あー。保育士になりたいんだっけ?」

「うん。通いやすいし」

玲奈は既に目星を付けているようだ。私なんて、学費が安くて、通いやすいところがいいな、ぐらいしか考えていない。

「玲奈は目標があっていいなぁ。私、将来の夢とかないんだよね」

「えー?お花屋さんになりたいって言ってたじゃん」

「……そんなこと言ったっけ?」

「言ってたよ。幼稚園の頃」

よくそんな事覚えているなぁと思いつつ、私は呆れる。

「私が花屋になりたいと思う?あぁいや、花屋を馬鹿にしている訳じゃなくて」

「超思う」

「はぁ。しっかしよくそんな事覚えてるね。私、幼稚園の頃とか全然覚えてないや」

「そんな!私との感動的な出会いを忘れたの?」

「ごくふつうの友達だったと思うけど」

そんなくだらない会話をしていると、横断歩道に差し掛かる。その時ちょうど、青信号が点滅する。

「走ろ!」

「えぇ?渡るの?」

まったく玲奈はやんちゃだなと思いつつ、私も走ろうとする。その時、横断歩道へ向かってくる、一台の車に目が行く。私は特に気にせず、走ろうとした。が、どうやら減速する気配がない。まさか。

「危ない!」

咄嗟にそう叫ぶ。途端、強いめまいが私を襲う。

体が倒れそうになるが、なんとか持ちこたえる。

頭を抱えながら、前を見る。玲奈は無事だ。

車が来た方向に目を向ける。街路樹に車が突っ込んでいる。

状況が整理できない。


いったい、何が起きている?


***************


周りには大量のパトカーと、警察官。

私は気が付かなかったが、道路で爆発があり、そのおかげで車が逸れ、玲奈は助かったらしい。訳が分からない。


「話を聞きたいので、ついてきて頂けますか?」

そう声を掛けられ、それに従う。

言われるがままに車に乗り込む。一緒に乗っているのは警察官なのだが、車両がパトカーではない。しかしそんな事を気にする余裕は無く、状況を飲み込もうと情報を整理する。まったく整理できない。

私が困惑していると、

「着きました」

いつの間にか、車は目的地にたどり着いていた。早すぎると思ったが、私が爆発のことで頭がいっぱいいっぱいになっていただけだと気づいた。

車を降り、やはり言われるがままに警察官についていく。前方には建物が見える。

大きいな、などと思う自分に呆れる。

建物の中に入る。外からはわからなかったが、病院だろうか?

私は診察室のであろう部屋へ案内される。

警察官が扉をノックする。

「先生?連れてきましたよ」

そうして出てきたのは、眼鏡をかけ髪をまとめ、白衣を着た女性。だが医者には見えない。

「本当は目撃者も連れてきてほしいのだけれど……まあいいわ。ご苦労様」

警察官はその女性に頭を下げ、この場を去る。私は女性に尋ねる。

「あの、あなたは?」

「初めまして。私は「トレード・シンドローム」を研究している、新条綾香という者よ。以後よろしく」


*************


「まだ何が何だか分からないかもしれないけど、私の質問に答えてもらうわ。まず、貴方の名前を教えて」

「……朝田茉莉、です」

「朝田茉莉さんね。じゃあ、貴方の覚えている範囲でいいから、あの横断歩道で何が起こったか教えて頂戴?」

「えっと、横断歩道が点滅して、玲奈が走って、車が突っ込んで、そしたらめまいがして、車は街路樹に突っ込んでいて、玲奈は無事で」

ここは診察室だ。私はこの新条綾香という女性に質問され、それに答えている。

「ゆっくりでいいわ。落ち着いて答えて。……眩暈となると、血液かしら?それとも三半規管に対して何かしらの、いや、眩暈自体が……」

血液?貧血ということだろうか?

「えっと、せ、先生?」

先ほどの警察官に倣い、この女性を先生と呼ぶ。

「ああ、失礼。記憶の混濁などは無さそうね。体の調子はどう?」

「大丈夫、だと思います」

「ふむ……自覚症状は無し、と。」

これは何のために行っているのだろう?何故私だけ?玲奈は?

何が起こったのか知りたい。

「あの、いったい何があったんですか?」

「それは長くなるから、先に貴方の体を調べさせて。結果を待つ間に説明するわ」

私の体を調べる?それは、どういう

「そんなに怯えないで。ただの健康診断よ」

健康診断?あのめまいは、何かの病気によるものなのか?私は不安になる。



先生に従い、一通り検査を済ませた。

診察室に戻る。

「お疲れ様。じゃあ早速だけど、貴方に何が起こったのか説明するわね」

「お願いします」

「道路で爆発が起きた事は理解しているかしら?」

「はい。私はめまいのせいで分かりませんでしたが」

道路には爆弾のようなものは無かったと思う。それなら車の中に爆弾があったか、車時代が爆発したのだろうかと考えるが、車が街路樹に突っ込んだということは、やはり外部に爆弾かなにかがあったのだろう、などと考えていると、先生が口を開く。


「単刀直入に言うわ。あの爆発は貴方が起こしたものよ」

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