玖, 契約
第1話 それから
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「あーくん、本当にいいの?」
「ああ、おもいっきりやってくれ」
「本当の、本当に?いいの?やっちゃうよ?」
「やっちまえ!」
舞子の持つ針がブスリッと鈍い音を立てて血管につきささった。
「……ぃってってえええええ‼︎」
「ああ、ごめん。ごめん、あーくんそんなつもりじゃ…――」
「い、いや、大丈夫。このくらい、なんとも………」
「嘘つけ…涙目になってるくせに」
「なってない!」
針が刺さったところから、一気に何もない空気が入ってくる。
どう言う仕組みかわからないけれど、こうしたら本契約が完了するらしい。いくら気持ちを振り切ったとはいえ、自分でこの針を刺す気にはなれなかったので舞子に刺してもらった。
針はやがて体内へと解け込んでいく。そして跡形もなく、消えた。あんなに痛い思いをして刺されたのに皮膚もなんともなかったかのようになっていた。
天人は服の袖を下ろして、炬燵に足を突っ込む。
「はい、じゃあ、次ははーくんだね」
「はいはーい」
あれから…――あの日から一週間が経った。
数日前に冬休みへと入り、暫く落ち着くまで天人達は合わないことにしていた。気持ちの整理がつくまでは、ひとりでいたいと言う天人の言葉に頷いて、天人は一人でいる時間に色々と考えることができた。
今日は久しぶりに、雷風神社で集合だ。
相変わらず暖かい炬燵で源郎と天人、佰乃はぬくぬくと温まる。
袖を捲ったハルの陶器のような腕に舞子は針を当てる。
「いくよ」
「うん。どーんとこい。天人が泣くほど痛いのか、体感してみようじゃないか」
「だから、泣いてねーっつの……」
舞子は勢いよく、ハルの腕に針を差し込んだ。
「………ん、んん?」
針は、皮膚に入って、ある一定のところで止まる。
舞子は源郎に助け舟を求めた。
「ねぇ、全然進まないんだけど」
「ああ?あー、そのくらい埋まってれば自然に入ってくよ。手を離してみろ」
そう言われて、不信感が残りつつも舞子は手を離した。
独り立ちする針は、暫くしてゆっくりと皮膚の中にのめり込んでいく。
誰もが、大丈夫だと思ったその時、針が一瞬にして砕け散った。空中に跡形もなく散り散りとなって消えていく。
は?と皆が言葉を漏らす。
「…え、失敗したわけ?」
「いや」と言って源郎は炬燵から抜け出すと、ハルの先ほど針を当てたら変をさすった。
なんともない。
「失敗っていうもんじゃねぇ……。破壊されたんだ」
「どういうこと?」
「つまり、お前の体自身が本契約を結ぶことを拒んだんだよ………。でも、俺様の上げた魂の一部はまだこっちに戻ってきてない…………。つーことはまだハルの中にあるのか?」
「ちょっと、状況が読めないんだけど………」
源郎は顎の下に手を当てた。
「なぁ、ハル。お前、最近体調悪いとか、力の暴走とかないか?」
「ない、けど……。いたって平然だけど……」
佰乃と舞子は首を傾げる。
静かに、源郎は考えた。
魂の分裂なんて、自分もしたのが初めてだったし、前例のないものだから、こういうこともあるのかもしれない。しかし、万が一のことを考えて、ハルには伝えておくか………。
「ハル」
「なに?」
お前、暫く力を使うのはやめておけ。
壱~end~
僕らが辿った一つの軌跡-壱-(旧;始の鐘) @nokal
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