第13話

 突然、後ろから肩を叩かれた。

「何ですか?」

 さして驚きもせず、助手は博士を振り返る。

「ふふふ、よく訊いてくれたな、助手君」

 博士は嬉しそうに、紙に描いた設計図の説明をする。

「これは、世界中の火山を同時に噴火させる機械なのだよ。すごいだろう」

「はぁ……」

 助手は適当に相槌を打つ。

「見ていろ、助手君! 私は今度こそ、世界を滅ぼすぞ!」

「だから博士、世界はもう終わってるんですって」

 助手は博士にそう返す。

「人類はほぼ絶滅したし、高度な文明も、もうありません」

「しかしだ、助手君」

 博士は反論する。

「我々はこうして生きている。動植物も元気だし、世界は見事存続している。だから私は、毎日努力を重ねているのだよ」

「そうですか」

 博士は設計図を眺め、ゆがんだ笑みを浮かべる。

「ふはは、この機械さえあれば、世界を滅ぼせるぞ」

「でも博士」

 今度は助手が反論する。

「火山の大噴火は、過去に何度もありましたが、世界は滅んでいませんよ」

「確かに……残念だが、この案も却下だな」

「世界を滅ぼすって、案外難しいですね」

 こうして、博士と助手の平和な日々は、今日も過ぎていくのだった。

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博士と助手と終末と 橘 泉弥 @bluespring

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