第12話
「すみません、博士」
助手は無表情で、持っていたスタンガンを下ろす。
「扉のボタンと僕の電源を連携させておいて、良かったです」
助手は扉から研究所の外を見やる。
そこには、人々の生活が広がっていた。
車は空を飛び、人はロボットと散歩をする。高くそびえる塔の巨大ディスプレイには、ニュースを報道するアナウンサーが映っていた。
「さあ、家に戻りましょう、博士」
助手は、動かない博士を引きずって、研究所の中へ戻る。
扉を閉めて、博士をベッドに寝かせると、助手は湯気の立つ緑茶を持ってくる。
「ねえ博士、外の世界の事なんて、忘れましょう」
助手は博士の身体を起こし、その口に優しく、茶を流し込む。
「博士はただ、僕と、世界を滅ぼす事だけ考えていればいいんです。大丈夫、僕が守りますから」
緑茶は博士の口を通り、胃へ到達して、その薬物を正しく作用させる。
「貴女に僕だけを見てもらうために、物語の設定をつくったんですよ。世界は終わって、もう僕と貴女しかいない。いい世界でしょう? 僕は貴女といるためなら、何だってしますよ」
助手は屈託のない笑顔を見せる。
「ねえ博士、これからもずっと、僕の傍にいてくださいね……?」
世界と隔絶された研究所の中、助手は愛し気に博士の柔らかな髪を撫でるのだった。
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