第44話



 タケダが亡くなってから数ヶ月が過ぎた夜、殆ど研究に対する興味をがれたコミネは、それでも研究結果を出そうと遅くまで実験を行なっている。

再生医療学会に研究発表を予定している。

国家資金で自分の研究に助成金を付与されている以上、研究結果を全く出さないという事は許されない。

それは脱税と同じ、犯罪者と同じ扱いを受けることになる。


 使命感だけで、その使命感に突き動かされているだけの状態で実験をしている。

廊下を歩いて突き当たりの部屋、コミネは P3 room の前に立つ。

向かいの部屋にある蛋白質分析装置を使おうと思っていた。

が、コミネは P3 room の前に立ちタケダを思い出す。


 ふと気がつく。

P3 room の扉が少し開いている。

鍵がかかっていない。

P3 room の前室が丸見えになっている。

明かりはついていない。

誰もいないのか、物騒な話だ、とコミネは思う。

と同時にタケダの言っていた事を思い出す。

その後ですぐにハナダの言っていた言葉も思い出す。

「関わるな、という事です」


 コミネは耐え難い衝動に気持ちが動かされる。

関わってはいけないこと、それがもしタケダの死と関係あるとしたら・・・。

いや、とんでもない発想だ。

そう思いながらもコミネは P3 room の扉の取手に手を掛ける。


 そして中へ入ると、明かりをつける。

壁側には使い捨ての防護服が吊るされている。

コミネは白衣を脱いで防護服に着替える。

次いで、 P3 room の明かりをつける。

自分が使っていた時とは違う、機器類の配置と新しい装置の導入。

それ以外は何の変化もない普通の実験室である。

ただ、その奥にある別室以外は。

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