第45話



 コミネは P3 room の奥の部屋の扉の取手に手をかけている。

開いているはずがない。

P3 room は全て鍵がかかっている。

鍵は事務室にしかない。

然も、事務員に言って鍵を貸してもらい、更に管理ノートに所属と氏名を記帳しなければならない。

夜は警備員が一人いるだけである。


 勿論、そのような事など充分承知の上でコミネは、別室の、この奥の部屋と呼ばれている扉の取手に手をかけている。

コミネは思い切ってこの扉を開けようとする。

重い鉄扉が開く。


 なんていうことだ、ここでさえも鍵が開いているのか。

暗い部屋の中で人の気配を感じる。

コミネは、いつの間にか震え出した手で暗い部屋の明かりを壁伝いに手探りで探し、これかと思えたスイッチに触れることができ、意を決してスイッチを押す。


 明かりがついた。

そこには、ガラス張りの部屋があり、一つの物体が見えた。

髪を切っていないのか、全身が髪の毛に包まれているようにも見える。


「何ということだ」


コミネは小さな声で叫ぶように言う。


 ガラスの仕切りでさえぎられた部屋にはマイクがあり、それでガラスの内側と外側とでコミニュケーションを取ろうとしているのであろう。

そのコミネの声に反応したかのように、先程まで背中を見せていた生き物が、いや、人らしき生き物が、こちらを振り返るように動き出す。


 一瞬、髪に覆われた目がコミネの目と合ったような気がした。

その時、聞き覚えのある声がする。


「せ・ん・せ・い、あ・そ・ぼ」


 その生き物の腕には小さな犬が抱かれていた。


「これは人体実験ではないか。然も、なんて事をするんだ、これは・・・。オオサワは自分の実験のために、自分の娘を使ったのか」


コミネは、今度は割れんばかりの声を上げて、意味のない叫び声を発した。

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