第43話 references (研究をするにあたって参考にした文献など)
タケダは、夜になると実験を休んで、夜中に研究室に戻るが、実験をするわけでもなく。
どうしても気になる事がある。
それは関わってはいけないもの。
研究そのものが依頼でもされない限り、他のチームには関わってはいけないものであることは周知。
それでも気になるものは気になるもの。
元々、気になったものは放っておけない気質。
臨床をやっている時も、患者の状態で気になった症状は文献を探して、納得いくまで原因を知ろうとする。
タケダが研究を志したのもそういう性格から。
ただ、ある程度の研究結果が出たら臨床に帰ろうと思っていた。
研究に没頭するのも良い、そう、かなり楽しんでやっている。
然し、自分が研究をやっている間に、難病と言われている人達が苦しんでいることも知っている。
勿論、自分が何とかできるなどとは思ってもいないが、自分のような医師でも必ず役に立っている筈だという自負もある。
この世界では、総合病院や大学病院では、医師も歯車の一つでしかない。
が、自分は誰よりも懸命に命と、患者の生活と付き合ってきたように思う。
今の研究、この発想に基づいた実験である程度の結果を出せれば、臨床に帰るつもりでいた。
正義感というほどのものでもないが、タケダをこの行動に移させたものが、根底にある性格かもしれないであろうことは言える。
その行動とは。
必ず、ボロが出るであろう。
誰もいない夜中に、隙が出る筈であろう、とタケダは思っている。
だからと言って、何もせずに各研究室をうろうろすることはできない。
今夜は久しぶりにビアコアを動かしてみようと思っている。
彼の研究の中でも元も重要な位置を占める解析であって、片手間でできるような実験でもないが、ある程度の効果を導き出せたなら、やっておかなければいけないので、今夜にでも解析してみようと思っていた。
ビアコア、つまり反応させる事ができれば必ず効果があるであろう物質、或いは薬品が細胞に届いているかどうかを知るための解析装置である。
彼は、ビアコアの前に立つが、夕刻に置いておいた実験ノートの上に別の実験ノートが置かれているのを見る。表紙を見るとオオサワのチームのものである事が分かる。
タケダは「しめた」と心の中で歓喜の声をあげるが、それとは裏腹に中身を覗いて良いものかと思案する。
勿論、そんなことは許されるはずがない。
が、今まで、おかしい、と思っていたことが、その原因が分かるかもしれない。
タケダは、周りに誰もいない事を確認して、注意深く中身を読んでいく。
驚きと共に読み進んでいくにつれ、暫くして。
「馬鹿な! そんなことできるはずがない」
と声に出してしまうが、その時。
「それは、私達の実験ノートだと思いますが?」
タケダの出した声の後に続いてハナダの声が背後から聞こえる。
自分が他人の研究ノートを勝手に読んでいることなど忘れて、
「あなたたちは、なんて事を考えているんだ」
タケダは振り返りながら叫ぶように言う。
「困りますね、他のチームのノートを勝手に読まれては」
「装置の前の机にノートを置いていたのは私が先だ、それは私が先に装置の予約をしたと言うこだ」
「そんなことは分かっていますよ」
「何だと」
タケダは、血が引いていくのを感じた。
もう遅いと思ったが、悟った。
わざとだ、わざと自分がオオサワのチームの実験ノートを見れるように仕組んでいたのだ。
罠にハマった小動物を見下すような態度でハナダが言う、
「さて、知りたかったのでしょ? 私達の実験を、最後に教えてあげようと思いましてね」
「最後だと?」
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