第40話 material and method(実験に使用する材料と方法)





 タケダが亡くなってから、コミネは P3 room の奥の部屋が気になってくるようになっていた。


 タケダがおかしいと言った部屋、関わらない方がいいと言った自分。

確かに、おかしいかも知れない。

自由に病原性微生物を操作できる部屋の奥にもう一つの部屋を作る。

だが、おかしい事でもない、と思い直す。

今までの実験結果から何かの情報を得ることができたのなら、動物を利用して、生体という内なる営みの中で、なんらかの効果を見てみるのは当然だ。

でなければ人に即応用という訳にはいかない。

それはやってはいけない事になる。

然し、何故、鍵が必要なのか? 実験室に入られては困る事情でもあるのか? もしかして実験室から逃げられては困る生き物、実験動物を飼っているのか? 当たり前のことだと思う事がある。

普通に飼っている実験動物でさえも二重扉で、勿論、鍵がかけられている。

然し、それなら何故、P3 room の奥の部屋に? それも当然であろうと思える、病原性微生物を扱う部屋で、何らかの感染症を持った動物が居たとしたら、特別に動物舎に新しい閉鎖空間を作ったとしても、それはあまりにも危険な行動である。

やはり考え過ぎだ、とコミネは目をつむる。


 然し何故、研究の検討まで P3 room で行う必要が?何処にある? 人に聞かれては困る話なのか? いかん、深読みだ。企業が参入している限り、間違いなく特許申請が絡んでいるはずだ。

誰にも聞かれないように閉鎖空間で行われるのは当然ではないか。

勿論、P3 room には防犯カメラが備えられている。

ただ、音声まで拾われたりはしないが。

なら、その奥の部屋はどうなっているのだ? 防犯カメラは必ず取り付けられている筈だ。

そう思うと事務所に行って確かめたくなってくる。


 コミネは、その足で事務所に向かう。

関わってはいけない、そう呟いて廊下を歩いていたが、やがてその言葉が、俺も相当の馬鹿だな、に代わっていた。

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