第34話



 タケダと会ってから数日が経つが、あの日以来タケダと会っていない。

普段から会えば必ず会話をするという訳でもないが、ここ数日、廊下で会う事もなくなっている。

研究室や廊下ですれ違う事などあれば、声を掛け合うことがなくとも、片手を上げて笑い合う事ぐらいはする。

忙しいのだろうか? 他の大学へ出張にでも行っているのだろうか? 学会発表で地方に行っているのかもしれない、もしそうならお土産が楽しみでもある。


 その日は深く考える事もなく、夜遅くまで実験していた。

然し・・・、誰かが居るような気がする。

これまでにも、そういうことは何度かあったのであまり気にしてはいなかったが、どうも見え隠れしているような気配を感じる。


 チームのメンバーか? 違う、それなら気配どころか、その存在感をあからさまにして実験をしているだろう。

数日くらい顔を合わせていないタケダは? 確証はないが学会発表? だとコミネは勝手に思っている。

それなら、この違和感のある存在? みたいなものは? 

なんだろう? この変な感覚は・・・。


 コミネは研究員室に戻り、昼間に買っておいたサンドイッチを食べ、缶ビールを開ける。

誰かがいたような気がする、誰なのだろう、研究員でもなさそうな気もする。

じゃあ誰? 研究員以外に一体誰が研究所に出入りするというのだ? 人じゃ無い? コミネは声を出して笑いそうになる。

まさか。


 よくある話、病院の怪談話。

研究所にも似たような話はいくらでもある。

流石に動物実験で小動物の命を奪っているのだから。

ある施設では夜中にいくつもの小さな赤い光が2対でそこらへんを走り回っているのが見えた、という話がある。

マウスの目。


 白衣を着た人が、テーブルに向かって実験をしている。

誰だろうと近づくと消えてなくなる。


 エレベータの扉が勝手に開いたり、指定していない階でエレベータが勝手に止まりドアが開く、などキリがないくらいに、その手の話は多い。


 マウスではなく人の場合の説明は、自殺した研究員? おかしな事にそういうことになっている場合が多いが・・・、実際に医学研究員は自殺者が多い事も事実だろう。


 コミネは、ふっと笑う。

もしも、それらの話が全て事実だったとしたら? 怖くて研究員室で、然も一人で仮眠などできたものではない。


 コミネは、サンドイッチだけでは足らずに、ビールは程々に切り上げて、カップ麺にポットの熱湯を注いだ。

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