第32話



 コミネは顕微鏡画像を一通り撮り終わると、今度は遺伝子研究室に入る。

今度はオオサワの実験である。


 PCR、ポリメラーゼ・チェイン・リアクション。

ポリメラーゼとは核酸を合成する酵素である。

DNA、RNA、これらは連鎖状に繋がっている。

所謂いわゆるDNAで言えば、ワトソンとクリックで有名な2重螺旋構造を合成するのがポリメラーゼである。


 コミネが使う分析機は、RT-PCR、RT(リアルタイム)ーPCRである。随分前までは、人為的に合成させたDNAをゲルに流し、そのバンドの位置を確認することで遺伝子を特定していた。

現在では、合成された遺伝子を判定量的に分析する事でどのような遺伝子かを特定できるようになっている。

これがRT-PCRである。

正確に言うと RT-RT-PCR、リバース・トランスクリプションーリアル・タイムーPCR。

この意味は、逆転写酵素で複製するー結果が早く分かるーPCR、と言うところであろうか。

病院などで使われるPCRもこれであり、特定の遺伝子の合成の始まりと終末の遺伝子を使う、前者が開始コドンと言われ、後者を終止コドンと言う。

これさえ分かれば、遺伝子は合成の開始が行われ、特定の遺伝子が出来上がれば合成を終止させることができる。

ただし定量化できるくらいの遺伝子の量が必要になってくる。

その為に遺伝子を合成するアミノ酸、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、ウラシル、を分析装置の溶液に大量に加える。

結果として特定の遺伝子が合成されれば陽性、合成されなければ陰性、ということになる。

但し、似たような遺伝子、開始コドンと終止コドンは世の中には多く存在するので、間違って合成されることも多分にある。

これが偽陽性である。

遺伝子検査絶対説が、ここにもろくも崩れ去る理由である。


 コミネはオオサワが開発した遺伝子が合成できているかを、この装置で調べようとしている。

合成に成功していれば、この遺伝子を大量に生産し、生物の核に入れる。核内に入り込めれば、その遺伝子が働き、目的とする蛋白を生物体内で産生できることになる。所謂、クローン、この操作をクローニング、と言う。


 コミネは反応液を、その機械にセットし、RT-RT-PCRのスイッチを入れる。

そこへ免疫チームのタケダが缶珈琲を2本持ってやってくる。


「よ、頑張ってますねぇ。他の御3人さん達は、仲良くお昼ご飯を食べに行きましたよ」


「私には、関係ありませんよ」


「そんな寂しいこと言わないで、缶珈琲くらい飲める時間はあるでしょ」


「勿論、今こいつのスイッチを入れたばかりですから、休憩にしましょう」

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