第31話



 コミネは顕微鏡室に入って行くとレーザー顕微鏡のスイッチを入れる。


 レーザーの波長を合わせて、ピントをスライド・ガラスに合わせる。


 「よし」


と言う。


 損傷したマウスの脳には、移植した神経幹細胞がしっかりと根を下ろしているように見える。


 目的とする細胞に蛍光色素を加える。

蛍光色素に波長を合わせると、目的としている蛋白質が存在すれば、レーザー光線によって発光するシステム。

蛍光抗体法と言う。

現在の研究室で形態学的検索をする時に使われる最もポピュラーな方法である。

総合病院などで病理診断室がある所でもよく使われる検査法でもある。


「もう少し、あと少し」


とコミネは独り呟く。


 移植した部位から神経繊維が張り巡らされ、マウスが正常な反応を取り戻したなら、この研究の半分以上は成功したことになる。


 コミネは先ほど見た、P3 room から出てきた3人のことなどすっかり忘れてガッツ・ポーズをとる。


「いけるかもしれない」


 再び呟くと顕微鏡画像撮影装置のスイッチを入れる。

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