第30話



 P3 room へオオサワとハナダが入って行く。

何かの相談をしたいようだ。

暫くするとオオサワだけが研究室から出てくる。

途中の廊下でコミネと目が合うが無視するように廊下を通り過ぎて行く。

そしてまた暫くするとハナダとモトキが実験室から出てくる。


「でも、彼女とは既に別れているのですよ」


とモトキが言う。


「ええ、若い女性の血液が欲しいのですよ。別れてしまってどうしようもないと言うのなら、それはそれで仕方のない事ですから、採血は他の誰かに頼むこともできます」


とハナダが答える。


「そうしていただければ助かります」


「ええ、ええ、私達も他を探しているところなので」


 先にモトキが実験室で研究をしているところへ、オオサワとハナダが入って行ったのであろうと思われるのだが、P3 room と言う密室を選んで入って行ったとしか思えない。

世間話程度の相談をしに、わざわざ着替えをしなければならない部屋へ入っていくとは思えないのだ。


 モトキの顔が心なしか青白く見える。やはり密談か、とコミネは思う。

然し、今のモトキに声を掛けようとは思えない。

当然のことながらハナダは論外である。


 P3 room の奥の部屋の新設と何か関係あるのか?

そうは思うものの知ろうとは思えない。

知ってしまうと、何かとんでもないことに引き摺り込まれそうなことになりそうな気がする。

以前、ハナダが言っていた。


「先生に何も話さないのは、先生に守秘義務を背負わせたくないからですよ。知ってしまうと絶対に他言することは許されない。そんなストレスを与えたくないからなのです」


 ハナダらしい論説であるとコミネは思う。

彼の話は全て理論尽りろんづくめである。

悪く言えば、感情がない。

人の感情を利用して理論を構築していっているようにも思える、そんな彼の意見には、どうもかなわない。

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