第29話 人体実験



 誰かに見られているような気がする。時々そう思うようなことが多くなってきた。


 別れを言ったのはモトキの方からであった。

サエは以前から覚悟していたのでそれほどのショックは受けなかった。

むしろ安堵に近いような、重い荷物をやっと降ろせたような気分であった。


 然し、それから数ヶ月が過ぎた頃であろうか? 時々人の気配を感じるようになってきた。


 何かをされるわけでもない、家の物が移動していたりするわけでもない、仕事から帰って一息ついて、やっと肩の荷を下ろせたような気分になって、やっぱり自分の部屋が一番良いと思う。


 自分の部屋が一番?


 そうでもない、かもしれない。

自分の部屋を出ると、今度は道路の向こうか、何処からか誰かに見られているような気がする。


 そして家に帰りホッと一息ついていると、また誰かに見られているような気がして、レースを引いているワンルームマンションのカーテンをしっかり閉める。


 誰かに見られている。

誰かは分からない。

何処から? 隣の部屋? 向かい側のビル? 違う?

ただ、誰かに見られている、そして興味本位で覗かれているような気がしない。

まるで監視されているような気分だ。


 確かに誰かに見られている? 監視、そうサエは思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る