第28話
研究員室の二人は缶珈琲の栓を抜き、冷たい珈琲を口の中に入れる。
「どうでしたか」
とタケダが問う。
「いやー参りましたね。こんな研究をしている人達がいたなんて、世界は広いですね」
「気に入って貰えましたか」
「ええ、とても興味深いですね。よくこのような論文を見つけられたものですね」
「ああ、私、ネイチャー・メディスンを購読しているものですから。この論文を見た時に先生の事を思い出したのですよ。ほら、何年前でしたでしょうか? ハーバードの医学部の連中がやった鍼の検証。先生が紹介してくださった論文ですよ」
「そうそう、ありましたよね、JAMA誌でしたでしょうか? アメリカ在住の鍼の名人と謳われた人達を招いて鍼を打ってもらい、自分達も教わって同じ事をしてみる、っていうやつですよね」
「ええ、その結果を思い出したのですよ」
「うんうん、確か、鍼の名人たちの効果は充分に確認できた。然し、効果とは別に神経障害を起こさせてしまった症例もある。でしたね」
「そう。そして彼ら医学部の連中がやると一切障害がなかったが、治療効果はほとんど確認できなかった」
「はっきりと思い出してきましたよ。その理由は、鍼を入れる場所は極めて神経に近い。それでも鍼師達はそこへ鍼を入れるので障害が起こる可能性もある。特に熟練の鍼師達はより神経に近づかせて鍼を到達させる、医学部の連中は解剖学が頭に入っている為、その神経に極めて近いツボのようなところまでは、危険を感じて鍼を入れられない、でしたね」
「それは、あの脈管のことかな? って思えてきたら、先生にこの論文をお見せしようと、ね」
「それは、ありがたい、神経病理をやっていてよかった、と思えますよ」
暫く、二人は談笑していたが、珈琲を飲み干すとタケダは研究員室を出て、解剖学研究室へと戻って行った、彼の専門は部分的に免疫を抑制することで、自己免疫疾患を抑えることである。解剖室は動物実験室の隣にあり、現在彼の研究では動物で関節炎への効果を確認できている。
コミネは暫く天井を見ていたが、久しぶりに喜んで実験をしたい気分になった。
「俺も、行くか」
そう呟くと病理学研究室へと向かった。
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