第21話
コミネは自分の部屋に戻ると冷凍庫からジンを取り出し、氷を入れたグラスに注ぐ。流石に今日は飲み過ぎか?そう思いながらも霜がつき始めたグラスを眺めて笑う。
冷えたジンは、アルコールらしくなく、とろりと流れてくる液体を唇で受け止める。今夜は、これ一杯で充分だろう。そう思う。
オイルサーデンの缶詰を開けると箸でひょいとつまみ上げ口に入れる。そしてまた、ジンの入ったグラスを唇で受け止める。食事もこれだけでいいだろう。
コミネはバーベキューの後片付けが済んだ後のオオサワの妻とした会話を思い出す。最近は毎晩飲むようになってきた、と言っていたな。主人とは心の波動が合わない。それは結婚した時から感じ始めていたとも。心の波動?そんなものは無い。それは理論物理学の世界だ。応用物理では証明されていない。実際にあることを証明しようとすればハミルトニアンの波動関数が必要ではないのか。時間経過と観察記録できる何かが必要だ。それができないのであれば、それは時間の存在しない世界、数値化されていない世界、即ち理論物理学の世界ではなかったか?実際に現実で証明できるのは量子物理学であり、量子物理学で心の波動など成立されてはいなかったのではないのか?
いかん、酔ってきた。どうでも良いことを考え始めている。大切なのは学問でもなく、言葉でもない。
じゃ何だ? 心か? で、心がどうしたと言うのか? そう、どうしたと言うのだ・・・。
眠ろう。コミネは残ったジンを一息に煽り、ベッドに潜った。うとうとし始めた頃の意識が朦朧とした時間。
そして夢を見た。昔愛した人の夢を。彼女が囁く。
「そう、心よ」
と、やがてその彼女の輪郭が変わっていくと、オオサワの妻の顔になっていた。そして彼女はさらに囁く。
「そう、心よ」
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