第18話



 「先生は研究所に来られてどれくらいになりますか」


「そう、もうすぐで一年になります」


そう言えば、確かに昨年のバーベキューでモトキは居なかったなとコミネは思う。


「そうですか、ここでの研究は如何ですか」


「ええ、結構充実してます」


なるほど、最近のモトキを見ていると確かに楽しんで研究をしているようにも見える。


「研究は進んでいますか」


「それが、なかなか、でも牛歩ではありますが手応えを感じながらやってます。先生の専門分野は如何ですか」


「あははは、こちらも牛歩ですよ。オオサワ主幹の研究を中心に進めなければならないので、自分の研究は相変わらず放課後のクラブ活動ですから」


「分かります。でも、良いボスの下で研究できてよかったじゃないですか」


コミネは心の中で小首をかしげる。


「そうですね、宮仕みやつかえの身では仕方ありませんね」


「先生のご専門は神経病理ですけど、それも同時にさせてもらっているじゃないですか。それに、研究費が足りなくなれば先生に援助してる、とオオサワ先生はおっしゃられていましたよ」


「ええ、ありがたく思っております」


そう答えながら、コミネは思う。確かに足りないもの、研究試薬や器具などいつでも言ってくれとオオサワは言う。しかし、自分の専門、神経病理に使う実験費用に援助などしてもらったことなどない。どちらにしても他人の研究に費用を横流しするなど許されてはいない。高額になれば報道ものである。コミネは頭を振る。あり得ない。あり得ないなら考えるだけ無駄である。


 その時、向こうで手を振る者がいる。


「先生方、そこでコソコソ話などせずに。こちらで一緒に飲みませんか。そろそろお開きの時間ですよ」


あれは、そう、企業の重役の一人、製薬会社ではなかったな、そうか、医療機器メーカーだ。名前は?・・・。どうでもいい、関係ない。


 コミネは席を立ち、


「先生、愛すべきボスの元へまいりましょうか」


とモトキに声を掛ける。


二人は、バーベキュー・コンロへ向かって歩いた。

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