第13話



 よく晴れた朝であった。コミネは身支度をして電車に乗る。オオサワの家までは一時間ほどだろうか。電車を降りてオオサワの家まで歩く。駅周辺の喧騒から離れて、更に歩くとオオサワの家がある。土地をふんだんに使った家が並び出す。どの家も百坪以上はあるだろうか?決して田舎ではないので、土地の値段もそれ相応であろう。コミネは自嘲する様に笑う。自分には関係ない。


 洒落た家ばかりが並ぶ一角から、既に煙が薄く立ち昇っている。確かに?あの辺だったかな?とコミネは苦笑いをする。毎年のように招かれてはいるが、いつも大体この辺だったような?としか思い出せない。仕方が無い、覚えようとする気もないのだから。


 オオサワの家に着き、オオサワの妻に庭へ案内されると既にハナダが忙しく働いている。子分?あははは、とコミネは胸の中で笑う。他に、見知らぬ人物?が3人、いや、知っている。企業の重役が二人、一人は若い。上司に無理やり連れて来られたのかな?多分そうであろう、とコミネは一人で合点する。


 重役は既にワインを飲んでいる。オオサワと高笑いをしながら。釣られる様にして若い社員が笑っている。モトキはまだ来ていない。


 未だ肉を焼くには早いのであろう。炭は充分に赤く白くなっているが、クーラーボックスを出したりとハナダが働いている。コミネは一瞬手伝おうか?と思ったが知らぬふりをしていた。そこへ、小さな女の子がやって来る。オオサワの一人娘である。若い妻をもらったが、なかなか子供ができずに、大沢が四十半ばを過ぎてからの子供だ。


「先生、遊ぼ」


 少女が言う。


「嬉しいな、僕のこと覚えてくれてたの」


「うん、コミネ先生。ねぇ、遊ぼうよ」


 少女は大好きな小犬に繋がっている細いリードを握りしめている。オオサワはこの娘を愛しているが、それと同じくらいに少女もこの子犬を愛している。去年来た時も、どんな遊びをする時も小犬に繋がれているリードを放そうとしなかった。コミネは笑いながら思う、放しても良いのに、と。何故なら、小犬もこの少女から離れようとしないのだから。


「先生、何笑ってるの? 遊ぼうよ」


「うん、3人でボールの追いかけっこしようか」


 少女はコミネが好きだ。その理由の一つが、小犬を人として認めるように一匹とは言わずに、一人と数えてくれるのが嬉しい。


「いいよ、3人で遊ぼ」

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