第10話
夜遅くに研究所に戻るとコミネは、24時間営業のスーパーマーケットで買ってきた白菜と鶏肉、豆腐をアウトドアー用の小さな鍋に入れる。アルコールランプに火を入れ、鍋を温める。事務員に見つかれば始末書ものである。研究所の事務員は実験計画に必要な書類と金銭を扱っているだけに、いつの間にか研究員と立場が逆転してしまっているところがある。
「先生、それは困りますねぇ、規則に違反してますよ」
などと声を掛けてくる。
ある日、コミネは動物の微小手術を教えてもらう為に他大学から形成外科の医者を呼び、マイクロオペレーション、即ち微小手術を教えてもらった。それを見ていた事務員に、客員登録されていない研究者を事務に無断で呼んでもらっては困ります、と叱られた。
コミネは、そんな日の事を思い出しながら、ビールの缶を開ける。これも始末書ものである。昔は良かった、などと嘆いてもしようがない。誰もが自由に研究グループという壁を越えて研究方法を教え合い、雑談し、夜中まで働いた時などは、共に缶ビールで乾杯などしたものだ。規則、それは確かに共同生活をする上では必要なものかもしれない。然し、厳しすぎる規則は人を圧迫するだけで役に立たないどころか、未来を壊すこともある。
夜12時過ぎ、すでに終電も無く、研究室に泊まる覚悟である。そんな所へ、企業から派遣されている客員研究員のハナダが研究員室に入ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます