第8話
二人は一階のベンチに腰掛けながら缶珈琲を飲んでいる。
「冷たい珈琲は気分を変えてくれて良いですね。これで喫煙コーナーでもあれば最高なんですけどね」
「ここには無いのですか」
「どこもかしこも禁煙ブームですからね」
「煙草を吸われるのは先生だけですか」
「いえいえ、別の研究チームに一人居ますけどね、煙草が縁で情報の共有ってやつをしてますよ」
「それって、有り?なのですか」
「あははは、お互いに大切な情報は言いませんよ。話が弾むとつい言ってしまいそうになりますけどね。今の所は情報漏洩は守られていますよ」
「確か、オオサワ先生の専門は病原性微生物ではなくて抗腫瘍遺伝子の開発だと聞いておりますけど」
「まぁ、そんなところですが、病原性ウィルスも取り扱ってますよ。どのウィルスがどんな発癌性を持っているのか、全てが分かっている訳ではありませんし、一部の研究者たちはウィルスだけではなく、細菌感染や真菌感染でも発癌性が発見されていくだろう、なんて騒いでますよ。先生は何を専門に研究されに来たのですか」
「まだ、はっきりとマテリアル・アンド・メソッドを聞いてはいないのですが、腫瘍制御機構ではなくて正常細胞への進化?正常な細胞へ分化成熟し元に戻る機構解明だと聞いています」
「それ、凄すぎますね。まだ腫瘍を撲滅?させるみたいな機構もできていないのに」
「無理でしょうか」
「無理か無理でないか・・・。でも、あのボスの事だから、無理じゃなくて、やるしかないと言い切ります、でしょうね」
「そんなものですか・・・。」
モトキは、やはりここへ来るべきではなかったか?初日からそう思えてきた。成功する訳が無い、と思えるような研究のために働かなければならない。自分は既に捨て駒としてここに居る。そんな気分に・・・。
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