第6話



 研究室に招かれたモトキは、高価な機器の豊富さに目を見張る。自分が卒業した大学院の研究室よりも遥かに充実している。


 そんなモトキの表情を察してオオサワは得意満面の笑顔である。


「先生、困った事があったらなんでも相談してください」


オオサワは言う。


 案外、頼りになる存在かもしれない。とモトキは思う。もしかしたら、噂通りの非情な人間かもしれないが、その非情さで外部に圧力をかけ、部下を守る人間なのかもしれない、と一瞬思ったが、心の中で頭を振る。騙されてはいけないと・・・。


 オオサワは、機器の説明は殆どせずに


「今日は実験の話は無しにして、ここの機器を見学してください。先生には満足していただけると思いますよ」


 そう言って去って行く。


 モトキは広い研究室に一人残され、案内なしに各部屋を覗いて歩く。


 顕微鏡室、と表札が掛かっている。モトキは、その顕微鏡を一つ一つ見て回る。光学顕微鏡が2台、実体顕微鏡が1台、共焦点レーザー顕微鏡が1台、その横には解析ソフトの入ったコンピューターが1台、そしてその横には最新型のキーエンス顕微鏡。どれもフルカスタマイズされたものだ。反対側の壁には書棚があり、組織、形態学。病理学、解剖学などオールカラー版の高価な専門書が所狭しと並んでいる。引き出しの中には、全種類の対物レンズが並んでいる。間違いなく、この部屋だけで一億円はかかっているだろう。形態学専門の研究室なら兎も角も、ここでは、この顕微鏡の群は研究所の一部に過ぎない。オオサワ、一体どれくらいの研究費を獲得しているのか?文部科学省、厚生労働省、そして企業からの寄付金。モトキはオオサワの巧みな戦術に汗が滲む思いである。

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