第4話



 派遣研究員のハナダは、オオサワと同じ大学を出ているが、医学部では無い。薬学部である。企業の研究室から派遣で来ている。企業からは、オオサワに莫大な研究資金が提供されている。但し、厚生労働省や文部科学省が提供している研究助成金ではないため、研究に直接関わらない用途であっても融通が効く。そうなってくるとハナダの境遇も良くなってくることは間違いない。


 企業としては、オオサワの研究成果に大きな期待を抱いている。もしも腫瘍の発現を抑制できる事ができたなら、創薬部門の成功は社内では歴史に残る成果を遂げたことになる。また、その薬品を世に出す事ができたなら、今までオオサワに提供してきた研究資金の何万倍、何億倍、いや、それ以上の売上金が企業に入る事になる。


 ハナダとオオサワは、週に一度は会議室を借り切り、二人だけで話をしている。実験結果の報告、結果の解釈、解釈に基づいたこれからの実験方法、そしてどの時点で公表するか、公表してからの営業戦略。喩え研究途中であっても、どれだけの成果を出せたかを世界に向けて公表するだけで製薬会社の知名度は上がり、そうなると研究に関わっていない薬品も売り上げがあがる。勿論、常にパブリッシュはインターナショナル・パテントを取得しながらである。そして更に月に一度は、会議と称する小料理店などでの雑談。


 基礎医学と呼ばれる研究を主とする世界で働く者達は、臨床医学で働く医師達と違い、常に名誉と現金を求めていると言っても嘘にはならないくらいである。

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