第15球 終わり
(https://kakuyomu.jp/works/16817139555854103666/episodes/16817139557842123981)
「みどりー!何してるの?」
お母さんの声にハッとして我に返る。今朝はすごい積雪で、曇り空にもかかわらず、窓の外はぼんやり白く明るかった。
薄暗い廊下は床暖房の余熱でまだほんのり温かい。足元を冷えた風が通り抜けていく。
壁にかかった鏡の中で、ぼんやりしている自分を見ながら、私はまだどこか夢心地でいた。
何か素敵な夢を見ていた気がする。
「……もう。いつまで鏡に見惚れてるの?
いくら美人に生まれたからって、――って、あら。泣いてるの?」
気づくと涙が頬を伝っていた。別に哀しいことなんて何もないはずなのに、溢れるそれは止まらなかった。
「えへへ、ごめーん」
誤魔化すつもりで、お母さんに抱きついた。だけど、なぜかハル姉のことを思い出し、ちょっぴり鼻の奥がツンとした。
「えー、何?急にどうしたの?
……あら、みどり。ここの髪、一房だけまっすぐサラサラね。ここだけストパーしたの?それとも、付け毛?」
「え?」
お母さんに言われて、頭を触る。ゴワゴワの癖毛の中に、紛れた一房のサラサラストレート。びっくりして鏡を覗き込むと、何だか明るい夏の気配がした。外はこんなに寒いのに。
「あっ、もうこんな時間!
早くしないとお兄ちゃんの試合に遅れちゃう!みどり、忘れ物はない?」
うん!とうなずきかけて、ふと思い立ち、リビングへ戻る。
「兄貴の応援に行ってくるよ。今日は決勝戦だから。見守っててね、ハル姉」
青空みたいに笑ったハル姉の写真。いつもより少し優しく見えて、心が晴れやかになる。
コートを着て、なぜか二着ずつあるお気に入りの手袋とマフラーを手にとって、スニーカーを履こうとすると、見つからない。ちょうど雪だったので、今日はブーツを履いた。そして、これもまたなぜか二つあるお気に入りの毛糸の帽子に癖毛の髪を押し込んだ。扉を開くと、優しい白銀の光が私を包む。
「いってきます」
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