#3 俺の仕事-1
東京での一人暮らしは意外と楽だった。料理や洗濯、掃除などは殆どAIがやってくれる。見栄のために多少は自身でもやるが、やはり依拠してしまう。国から支給された介護ロボットは埃を被っていた。自分の身体のことは自分でやりたいという、これまた見栄である。
今日の午後の予定はイデアでの仕事である。PCのホロ画面で、メッセージを確認する。どうやら彼女らはもう集合場所にいるらしい。
俺は早々に電脳装置と呼ばれるデバイスを頭に装着する。これはイデアへアクセスする為の装置であるが、プロゲーマーである俺のそれは、一般の物より少し高額である。電源スイッチを押して、起動させる。この時代の物は音声認識で点けるものが多いのだがこれが手動であるのは、声帯に問題を抱えた人が使えるようにとバリアフリーの設計らしい。ベッドに横になり深く息をする。
よし、仕事の時間だ。強い睡魔から俺は「セイ」に変身するのであった。
そこはファンタジー世界の食事処。木造建築の洋風な趣きは、隠れた少年心をくすぐってくる。内では帯剣した者や弓を背中に乗せた者が、愉快に談話している。
「おー来た来たー。こっちこっちー」
小さな手を精一杯上げて俺を呼ぶ少女。赤褐色の肌を存分に見せびらかし、肩まで伸びた銀色の二つ結びの髪を揺らしながら大きく手を振る。
周りの視線を集めながら俺は指示された席へと歩く。
「おいおい!あれってセイじゃねーか?!プロゲーマーの!!」
「やっぱあの子、バーチャルアイドルのミネちゃんだよね?セイ様が来たってことは本物だよ!絶対そうだ!!」
その丸太を切ったような椅子へ腰をかけると、
「人気だねー。流石セラフィムだわー」
「はあ…なんでこんな人目の多い場所で集合なんだ?プライベートルームでよかったじゃないか」
「えーそんなのつまんないじゃん。ファンの皆んなに顔を見せるのも仕事のうちだよー」
「だからって今日じゃなくても…はあ、もういいや。さっさと始めよう。バルザンさんは?」
「トイレだってー」
そんな談話をしながらな大きめの丸太机に触れる。するとウィンドウと呼ばれる半透明のコントロールパネルが浮かび上がる。それの「密談」を押すと耳に栓でもされたかのように周囲の喧騒が遠退く。これはその名の通り、テーブルにかけている人達で密談をする機能だ。
「赤羽がソロネか…」
「そうだよーやっと権限貰えたー」
「セラフィム」「ソロネ」というのは、PUMの公認活動者に与えられる階級である。この位は全ゲームに適用される。何故ならイデア内のゲームは安全性を考慮し、全てPUM傘下の企業よって製作、管理されているからだ。
つまりイデアというのはゲームのハードではなく、大きな一つのインターネットのような物なのだと理解してほしい。その中での公認活動者という立場は、とても強力で宣伝人材として重宝される存在である。
そして、階級を降順に述べると、
となる。
そしてその中でも三単位に分けられ、中間層には、プライベートワールドの管理権利が与えられ、さらに上位層には、条件付きだが公式サーバーでのイベント企画の権限が与えられる。
「だからってソロネになった次の日にイベントする奴がいるか?」
「わたしー」
「そうだな!!」
俺が声を荒げていると見覚えのある漢が近づいて来た。大柄な其奴は大きなバトルアックスを背負い、丸坊主に眼帯をしている。鋼鉄の胸当てから飛び出たその腕は暑苦しいほどの筋肉を備えていた。
そんな彼を招き、席へ座らせる。
「よぉ!久しぶりだなセイ!!元気だったか?」
「どうも。バルザンさん。この通り元気だよ!」
俺らは互いの腕を交差させ、その自慢の筋肉をぶつけ合う。
「ねぇーねぇーいつも思うけど、なんでバルザンには『さん』付けるのー?」
赤羽が割って尋ねる。
「歳上だから」
「私もだけどー」
不機嫌そうな彼女の顔。その下の膨らみの無い胸に視線をやりながら
「子供っぽい」
「ウギャー!!」
女性の触れてはいけない話題に触れたらしく、説教が長々と続く。会話の聞こえない大衆は、その光景を不思議に思いながら、その様子を録画していた。恐らくSNSで彼女の怒りの形相が拡散されるのだろう。そう思いながら彼女のボイスをミュートし、熱りが冷めるまで待つことにした。
数分後。落ち着きを取り戻した彼女は、本題へと話を移す。
今回の仕事は「Magic & idea online」というMMORPGでの討伐イベントである。闘技場というステージでボスモンスターを召喚する。そして、大観衆の眼前で我々がそれを討伐する、というのが詳細だ。
「闘技場って何処のだ?ガルグラン帝国か?あそこは確か定員三万人だったよな。集まるかそんなに…」
「いーや、ヘルベスタ王国のだよー」
…え?
彼女の言葉を頭で何度も咀嚼する。
「定員六万人のMio《略称》最大級の大きさを誇るヘルベスタ王国の闘技場だよー」
「ど!?どうして!!そんな…今回は告知なしだぞ?そんなに集まるわけないだろう!」
テーブルを叩き、身を乗り出してしまう。
「確かに急だったから知らせは出せなかったけどー、君は自分を過小評価し過ぎだよー。君は世界中に注目される人だよー。そんなの集まらないわけないじゃなーい」
赤羽こそ過大評価し過ぎだ。
俺は木製のジョッキーを握り、リンゴジュースを飲み干した。
「あのなー、俺はただのゲーム好きなガキだ。偶然SNSで人目を集めただけで、ここにいるのだって奇跡なんだよ」
また俺の悪い癖がでた。只軽く否定すればいいものを俺は強い口調で論じてしまった。そのせいで彼女を不快にさせてしまったようだ。彼女は一言「見れば分かるよ」と席を立ってしまった。
不敵な笑みを浮かべながら。
Re:VIVE -全ての黒幕は、どうやら俺らしい。- 燈芯草 @tousinsou
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