第83話 妖精カーナの冒険2
◆コッコドゥ視点
吾輩はコッコドゥである。
名前はまだ無い。
どこで生れたかとんと見当がつかぬ。
何でも薄暗いじめじめした所で、ピヨピヨと泣いていた事だけは記憶している。
吾輩はここで始めて人間というものを見た。しかも後で聞くとそれは、エール職人という人間の中で一番煮ても焼いても喰えぬ堅物でべらんべぇな種族であったそうだ。
このエール職人、時々我々を捕つかまえて煮て食うという話がある。
しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。
ただ奴の掌のひらに載せられてスーと持ち上げられた時、何だかフワフワした感じがあったばかりである。
掌の上で少し落ちついてエール職人の顔を見たのが、いわゆる人間というものの見始めであろう。
なお、エール職人にもオスとメスの区別がある。
吾輩が最初に見た大きいエール職人がオス、後で見た小さい方がメスだという。
エール職人のオスは吾輩に無頓着で、主に世話はメスがやってくれる。
だから吾輩が敬意を払い、コッコのメスの卵を渡すのはエール職人のメスだけだ。
エール職人のメスは、卵を貰うと嬉しいのか歯を出して笑う。
正直、エール職人の顔はツルツルで、喜怒哀楽が分かりづらいが、コッコのメス達が言うには、歯を出しているのが笑う動作らしい。
ふむ。
ならばエール職人のメスは、吾輩にもっと感謝するべきであろう。
もっと餌の量を増量し、種類も豊富にするべきである。
まあいい。
ここは吾輩にとって大事な縄張り。
我がメス達との愛を育む、かけがえのない場所なのだから。
我らコッコドゥを人間は魔物と分類している。魔物?とはなんぞや。
魔物とは魔力を持った動物と、言う事らしい。なら魔力から説明しなければならない。
魔力は大気に含まれる魔素を動物が呼吸により吸収、一定レベルに達した者が魔物になるそうだ。
魔物になると動物は知能が上がったり、力が強くなったり、大きく凶暴になったりする。
コッコドゥの場合、知能と力、大きさである。ようは吾輩、頭が良いという訳だ。
凄かろう?称えよ。
ところで、昨日から吾輩の縄張りにケッタイな奴らが入りこんでメス達が怖がっている。
メス達を安心させ卵を沢山産ませるのは吾輩の役目、これは見過ごせない。
縄張りは本来、他のコッコドゥのオスから吾輩のメスを守る為に吾輩が見回る空間をそう呼ぶ。
縄張りは定期的にパトロールをし、不届き者を見つけ次第に粛清する我がテリトリー。
そんな大事な縄張りに吾輩の許可なく侵入し、好き勝手するとは万死に値する。
さっそく、縄張りに入り込んだ侵入者を粛清する為、奴らの情報を収集する。
すると奴らは、エール職人達が工房と呼んでいる建物に寝泊まりをしているらしい。
ならば粛清は夜を待ち、夜襲を仕掛けるのが最良といえる。
吾輩は入念に準備し、好き勝手している侵入者共に正義の鉄槌を下す為、今夜に夜襲を仕掛ける事とした。
日が傾くと吾輩は、何時ものようにパトロールを行い、メス達の安全を確認する。
そして深夜、奴らが寝静まった頃合いで工房に侵入。
今から断罪を始めるわけだ。
効率的に侵入者を排除するなら、最初に一番弱そうな奴から粛清する。
数を減らしたところで強者を叩く。
戦略的に優位を確保し、確実に勝利に導く為の方程式。
何?寝込みを襲うのは卑怯だと?
仕方なかろう。
吾輩はチキンハートなのだから。
「すぴーっ」
夜半、突如に工房から異音がする。
吾輩の縄張りで耳障りな異音を出すとは極めて不埒。
このままではメス達が不眠症になってしまう。そうなれば、健康を害するだけでなく、卵の生育にも悪影響を及ぼしかねない。
許さん。
一つ、我らの生き血をすすり……
二つ、不埒な悪行三昧……
三つ、醜い浮き世の鬼を、退治てくれようコッコドゥ!!
怨嗟に燃えた吾輩は素早く工房に侵入し、異音の元であるテーブル前に到着した。
くくくっ、奴らは一向に吾輩の動向に気づいてはいない。
吾輩の隠密行動を把握する事など、この世の誰にも出来はせぬのだ。
「すぴーっ」
さて、諸悪の根元である異音は、このテーブル上から聞こえてくる。
だが、それらしき者はテーブル上には……なんだ、アレ?
何か、小さくケッタイな奴がテーブルの一画に眠っている。
人間そっくりだが、やたら小さく羽根がある、何ともケッタイな奴だ。
「すぴーっ」
だが!
異音の中心は間違いなくコヤツ。
おのれ、吾輩のハーレムの平和を脅かす悪鬼は貴様だったのか。
よかろう。
今から貴様には、正義の鉄槌をくれてやる。
がばぁ、ふん!ドゴッ
吾輩はコッコドゥ唯一の武器である口バシを大きく振り上げると、其奴目指して一気に振り落とした。
手応え有り!
我、奇襲に成功せり。
トラトラトラ、だ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます