第82話 妖精カーナの冒険
◆皇国エール工房
「おい、レサ!俺は仕込みに入るから、今日の運搬はロドリゲスと行ってくれ!頼んだぞ!」
工房の朝は今日も早い。
ターナーは、さっそく工房で次の樽の仕込みに入らなければならない。
既に古い樽は半分が空、人手がない工房は身体が幾つあっても足らない。
風前の灯であった工房は、妖精印ビールを流行らせた張本人、ギムレット商会長ハンス氏と、なんかチッコイ妖精達の【罪滅ぼし皇国エール再起大作戦】で息を吹き返した。
お陰で経営も軌道に乗り、人手が足らない事を実感出来る様になっていた。
急ぎ辞めた職人達の呼び戻しをしたが、昨晩その内の一人、ロドリゲスを確保した。
だが、一時的に運搬を担当してくれたハンス氏とビール妖精モルト君が本来の場所に帰ってしまったので、ロドリゲスとレサに運搬を担当してもらい、仕込みは依然としてターナーが一人でやる事になっていた。
「たくっ、急に忙しくしやがって、あの海だか妖精だか分からねぇ奴らが、かき回してくれっから、全く調子狂うじゃねぇか!」
ロドリゲスとレサを運搬に出すと、黙々と工房の仕込みに追われるターナー。
ついつい愚痴も出てしまう。
まあ、贅沢な話なのはターナーも分かっている。
こんな事を言いながらも、妖精達に一番感謝しているのはターナーだ。
「まあ、アイツらにゃあ感謝しかねぇが、今度会ったら妖精印も褒めてやらぁな」
そう言いながら一人、ニンマリとするターナー。
ふと工房の端に何かの気配を感じ目線を移すと、ハゲ坊主のコッコドゥがターナーに気づいてドキマキしている?
「コケッ?!」
「何だぁ、おめぇ?そないな所で何やってんだぁ!」
バタバタバタッ
「コケーッコッコッコ!!」
ターナーに咎められ、慌てて出て行くコッコドゥ。
そんな端ッコで何を見ていたのか?
その隅にゆっくりと近づき見る。
「すぴーっ」
「はあ?!」
何と、そこに居たのは帰った筈の妖精が一匹?一人?
すやすやと自身が作った羽毛ふとんにくるまって天国を味わっている。
見るからに気持ち良さそうだ。
「………なんでぇ、まだ居たんかい……」
ニヤリッ
何だか、嬉しい気持ちになったターナー。
思わず口端を上げた。
そして、ある伝承を思い出す。
【妖精の姿を見たら幸運が舞い降りる】
皇国に昔から伝わる言い伝え。
ターナーも子供時代、親からよく聞かされたものだ。
そして今、皇国エール工房は前の忙しさを取り戻しつつある。
「………そうか……」
何やら一人、合点がいったターナー。
起きたら腹も減るだろうと厨房に向かうと、妖精サイズにカットしたパンと果物を小皿で寝ている妖精の側に置いた。
「喰ったらサッサッと家に帰んだぞ……」
一人ごとの如く呟いたターナー。
再び、工房の奥に仕込みに向かう。
「すぴー」
後には、小さい寝息を立てる妖精が一匹?一人?
◆
カーナ視点
「ふわぁぁーっ、良く寝たあぁ」
久方ぶりの最良の寝起き。
疲れが全くありません。
何て気持ちのいい朝?なんでしょうか。
この羽毛ふとん、最高です。
これで低反発マット、なんちゃらスパーがあれば鬼に
まあ、いいです。
「さて、皆は???居ませんね……先ずは、ごはんを食べてから考えますか」
目の前に誰かが用意してくれたパンと果物。
丁度、小腹が空いてましたから頂いちゃいます。
ぱくっ、むしゃむしゃむしゃ、ぱくっ
「おいひぃ!空きっ腹にはバッチグーです」
寝起きで目の前にパンと果物。
どなたの計らいかは存じませんが、有りがたく頂いちゃいました。
さて、お布団を亜空間収納に入れ、ごはんも食べ終えて状況分析です。
「確か私、レサちゃんの工房を助ける為、皇国に向かい、ハンスさん、モルト君に手伝って貰って、皇国エールの再起のお手伝いをしたんでした。それで現在、誰も居ないという事は…………どゆこと!?」
分かりません。
皇国エール工房を手助けしに来た筈ですが、途中から羽毛ふとんを作ってた記憶しかありません?
あれ???
「むむむ、これは誰かのインボーでしょうか?羽毛ふとんメーカーの回し者がいた?」
考えれば、考えるほど謎が深まります。
はて?そういえば、もう一つ、気になる単語が頭に浮かびました。
「ケンタッキー……?????」
ピロンッ
アメリカ合衆国
ケンタッキー州
州都: フランクフォート
人口: 450.9万
面積: 104,700 km²
いやいや、ナビちゃん。
こんな情報、要らないから。
ここ異世界だから。
アメリカ無いから。
大体、パスポートも無いよ。
前世でも更新、忘れちゃったし。
再更新、面倒くさい。
私にどうしろと?
「コケ………ッ」
「んん??」
ふと、ニワトリの声に振り向くと、フライドチキン………いや、オッキなハゲタカが手拭い?でほっかむりして、恨めしそうに私を見ていました。
恨めしそうに???
ハゲタカ、だよね?
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