第75話 プロジェクト▪雪ウサギ3
◆ナレーター視点
(バッグミュージック▪地上の雪ウサギ▪作詞作曲▪中島雪ウサギ)
テータニア皇国
王都 春の結界境
ギムレット商会の仕入先を確認する為、ハンス商会長の追跡をしていた皇国エール工房のレサは、ついにその妖精印ビールの生産拠点が神の森の中にある事を見つけたのである。
皇国の法律では、皇国内で消費されるものは特例を除き、4割を皇国内で生産されなければならないとされている。
神の森は他国との国境地帯に当たる為、生産場所が他国寄りなら外国品扱いになるのだ。
レサは、妖精印ビールの法律違反を確認する為、定期的に神の森に通うハンス会長の追跡を試みる事にした。
しかし、こっそりとハンス会長の馬車に潜り込んだレサだったが、途中でお花摘みに行きたくなり、会長の馬車が神の森の途中で休憩を取った際、抜け出してしまった。
そして、スッキリして戻ると馬車は無く、置いてけぼりを食ったのが判り、焦って追いかけるも馬車は見えず、完全に迷子になっていた。
途方に暮れたレサ。
ここは聖獣と有害な魔獣が居る危険地帯、防寒着は着ていたレサでも、迂闊に動き回るのは極めて危険だ。
とにかくハンス会長の馬車が、もう一度通る事を信じ待つ事、三時間。
幸いにも危険な魔獣に会わずにハンス会長の馬車を発見。安堵したレサ。
現地確認が出来なかったが、もはやハッタリも構わないと、この場所で商会長を捕まえて断罪する事にした。
「ていっ!」
ヒヒーンッ
道に飛び出し見事、馬車を止める事に成功したレサ。
そこに新たな出会いが待っていた。
新たな出会い。
それはレサが此処で、エール工房立て直しの
『妖精だぁーーーーーーーーっ!???』
その人物は何と人間ではなく、蝶の羽根のある15センチ足らずの妖精であった。
しかも彼女は、妖精印ビール立ち上げの主要メンバーであり、妖精印ビール会社の重労働に嫌気を差し、逃げ出して来たのだった。
レサの皇国エール工房の危機を知り、妖精印ビールが旧来からある生業を圧迫している事を知った妖精は、妖精印の創業メンバーの責任を感じ、本来の在るべき形に戻すべく、レサの工房に協力する事を申し出た。
心強い味方を得たレサは、さっそく彼女をエール工房に案内し、現状を説明する事になった。
「ええっ、ここがテータニア皇国入り口なの!?」
「はい。あのうっすらとした光の膜の向こうが、テータニア皇国の結界内になります」
「よ、妖精様?妖精様はテータニア皇国の結界の中に入った事はないんですか?」
「レサちゃん、妖精様は止めてくれる?それ、コンプレックスだから」
「え、なら、何とお呼びすれば宜しいのでしょうか?」
「カーナよ、カーナと呼んでくれる?」
「カーナビ様ですね、判りました」
「いや、カーナビは地図画面だから!カーナよ、カーナ▪アイーハよ!」
「ちずがめん?判りました、カーナ様。それでカーナ様は、皇国は初めてなんですか?」
「そうよ、森から出るのも初めてだわ!」
こうしてお上りさん宜しく、田舎妖精カーナとギムレット商会ハンス会長という味方を得たレサは、テータニア皇国王都にある皇国エール工房に二人の助っ人を招く事になったのである。
「きゃあああ、まさに古き良きヨーロッパの町並みだわ。欧州に来た見たい。ハンスさん、見て見て!オレンジの屋根があんなに」
「よーろっぱ?おうしゅう?は判りませんが、オレンジの屋根は皇国では普通ですね。屋根に使われている材料は皇国で産出される土を焼いた物なんですが、焼くとオレンジになるのです。ただ、安価なので多くの家屋で使われているのです」
「いやいや何処の観光客なの、カーナ様。本当に森から出た事無いんだね。まるわかりだわ」
レサは思った。
こんな田舎育ちの妖精に、皇国エール工房を立て直すアイデアなんて出せるのかと。
しかしこの考えが直ぐに撤回する事になろうとは、この時点のレサに知る良しもなかったのである。
「あの、カーナ様、ここが皇国エール工房になります」
「ほう、ほう、ほう、ここがレサちゃんのお家でエール工房なのね、いいじゃない」
「ああ結構、下町にあったんですね」
二人を案内したレサは、経営者の父に会わせようと二人を工房に連れて行く。
「父さん、工房の助っ人を連れて来たよ!」
「レサか?なんだ、ソイツらは?!工房は神聖な所なんだ。よそ者を入れるんじゃねぇ!帰った、帰った!」
しかし工房の職人でもある父、ターナーは助っ人の話しに断固反対したのである。
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