第75話 プロジェクト▪雪ウサギ3

◆ナレーター視点

(バッグミュージック▪地上の雪ウサギ▪作詞作曲▪中島雪ウサギ)


テータニア皇国

王都 春の結界境


飽くなき使命感とストーカーの様な執着をみせたレサ。

彼女はその後、数週間に渡りハンス商会長の追跡をする事になる。


そして、ハンス商会長のストーカーを始めたある日の事。

商会を出たハンス商会長の馬車は、街道から外れ、人もめったに通わない神の森方面へ分岐する道に入って行く。


そのハンス商会長の馬車に、事前に忍び込んだレサ。

ローブ姿と防寒着で荷台の荷物の間に隠れ、じっと機会を伺っていた。


「……この道は森に向かってる?きっと妖精印の工房に向かっているんだわ!」


彼女は、ハンス商会長の行動に何か確信のようなものを感じ、なんとか馬車に潜り込んだのだが、どうやら当りを引いたようだ。


しかし潜り込んだ迄はよかったが、途中でお花摘みに行きたくなり、会長の馬車が神の森の途中で休憩を取った際に抜け出していた。


そして、スッキリして戻ると馬車は無く、置いてけぼりを食ったのが判り、焦って追いかけるも馬車は見えず、完全に迷子になっていた。


「ど、どうしよう?!」


途方に暮れたレサ。

ここは聖獣と有害な魔獣が居る危険地帯。

森の中を迂闊に動き回るのは極めて危険だ。


とにかくハンス会長の馬車が、もう一度通る事を信じて待つしかない。


そうして待つ事、三時間。

レサが寒さも募ってきた頃、馬のいな鳴きが聞こえてきた。


「馬の鳴き声!?商会の馬車だわ!」


幸いにも、危険な魔獣に会わずにハンス会長の馬車を発見し安堵したレサ。


だが妖精印の工房、その現地確認が出来なかった。このまま帰っては、此処まで来た甲斐が無い。

もはやハッタリも構わないと、この場所で商会長を捕まえて問いただす事にした。


「ていっ!」


ヒヒーンッ


道に飛び出し見事、馬車を止める事に成功したレサ。

そこに新たな出会いが待っていた。


その後、エール工房立て直しのキイマンになる予定?の人物。

レサはここで、その人物に運命的出会いをする事になったのである。



『妖精だぁーーーーーーーーっ!???』


その人物は何と人間ではなく、蝶の羽根のある15センチ足らずの妖精であった。


しかも彼女は、妖精印ビール立ち上げの主要メンバーであり、妖精印ビール会社の重労働に嫌気を差し、今しがた逃げ出して来たのだ。


レサの皇国エール工房の危機を知り、妖精印ビールが旧来からある生業を圧迫している事を知った妖精は、妖精印の創業メンバーの責任を感じ、本来の在るべき形に戻すべく、レサの工房に協力する事を申し出た。


心強い味方を得たレサは、さっそく彼女をエール工房に案内し、現状を説明する事になる。



「ええっ、ここがテータニア皇国入り口なの!?」

「はい。あのうっすらとした光の膜の向こうが、テータニア皇国の結界内になります」

「よ、妖精様?妖精様はテータニア皇国の結界の中に入った事はないんですか?」

「レサちゃん、妖精様は止めてくれる?それ、コンプレックスだから」

「え、なら、何とお呼びすれば宜しいのでしょうか?」

「カーナよ、カーナと呼んでくれる?」

「カーナビ様ですね、判りました」

「いや、カーナビは地図画面だから!カーナよ、カーナ▪アイーハよ!」

「ちずがめん?判りました、カーナ様。それでカーナ様は、皇国は初めてなんですか?」

「そうよ、森から出るのも初めてだわ!」



こうしてお上りさん宜しく、田舎妖精カーナとギムレット商会ハンス会長という、本来はライバル工房の元締めである彼らを味方にしたレサは、テータニア皇国王都にある皇国エール工房に、二人を助っ人として招く事になったのである。



「きゃあああ、まさに古き良きヨーロッパの町並みだわ。欧州に来た見たい。ハンスさん、見て見て!オレンジの屋根があんなに」

「よーろっぱ?おうしゅう?は判りませんが、オレンジの屋根は皇国では普通ですね。屋根に使われている材料は皇国で産出される土を焼いた物なんですが、焼くとオレンジになるのです。ただ、安価なので多くの家屋で使われているのです」

「いやいや何処の観光客なの?カーナ様。本当に森から出た事無いんだね。まるわかりだわ」



レサは思った。

こんな田舎育ちの妖精に皇国エール工房を立て直すアイデアなんて出せるのかと。


しかしこの考えを直ぐに撤回する事になろうとは、この時点のレサに知る良しもなかったのである。



「あの、カーナ様、ここが皇国エール工房になります」

「ほう、ほう、ほう、ここがレサちゃんのお家でエール工房なのね、いいじゃない」

「ああ結構、下町にあったんですね」



二人を案内したレサは、経営者の父に会わせようと二人を工房に連れて行く。



「父さん、工房の助っ人を連れて来たよ!」

「レサか?なんだ、ソイツらは?!助っ人?工房は神聖な所なんだ。よそ者を入れるんじゃねぇ!帰った、帰った!」



しかし工房の職人でもある父、ターナーは助っ人の話しに断固反対したのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る