第72話 スコープ
◆とある大型トラック運転手兼殺し屋の真似ごとをしている雪ウサギ視点
皇国と神の森を結ぶ街道の端に、妖精印マークの入った大型トラックが、横付けして停車している。
どうやら妖精印ビールを配達し、ミッションを完了して此処で休んでいるらしい。
運転手はサングラスをかけ、タバコをふかしながら、何故かアサルトライフル【アーマライトM16】モデルガンのスコープを覗く。
『フーっ……………』
タバコの煙を吐きながら、無言でスコープから目を離すサングラスの運転手。
まるで何かを待っているようだ。
シャリシャリシャリシャリシャリシャリッ
そのトラックの横を、ソリタイプの馬車が通り過ぎていく。
『…………』
サングラスの運転手はサングラスを取り、その馬車を目で追っていく。
その目は氷のように冷たい目で、しかも運転手は雪ウサギであった。
『…………』
冷たい目の雪ウサギは、再びサングラスを掛け直すと、今一度、アサルトライフル【アーマライトM16】のモデルガンのスコープに目をやり、その馬車を追っていく。
カシャンッ
意味はないが、冷たい目の雪ウサギは、アサルトライフル【アーマライトM16】モデルガンの安全装置を外し、狙撃する体勢をアピールする。
『…………』
目はスコープに釘付けだが、相変わらず此の雪ウサギから言葉が発せられる事はない。
ここでスコープの中を見てみよう。
スコープの先には、先ほどすれ違った筈のソリタイプの馬車が停車しており、その馬車の前には女の子がいる。
どうやら、走っていた馬車の前に女の子が飛び出し、その馬車を止めてしまった様だ。
ふぅーっ
『…………』
スコープを外し、また無言で煙を吐き出す冷たい目の雪ウサギ。
いったい何がしたいのか。
突然、おもむろに集音器を取り出し、片耳にヘッドホンの片側を付ける冷たい目の雪ウサギ。アンプのボリュームを上げる。
ガガッ、スピーカーが雑音を捉え、冷たい目の雪ウサギは雑音を調整しつつ、クリアーな音質を再現する。
『妖精だぁーーーーーーーーっ!???』
『まあ!?そんなオバケが出たみたいに言うなんて、この子は礼儀がなってないわね!』
『妖精が喋っ』
『あ、もう、それはいいから』
『もごっ!?』
『このホップでも頬張ってなさいな』
『に、苦ーーーーーーい!?』
『あら、失礼』
『カーナ様、この娘、私は見覚えがあります』
『ハンスさん、知ってるの?』
『先日、私のギムレット商会に殴り込んで来た子ですね』
『殴り込み!?やくざなの?』
『ヤクザ?は分かりませんが、その子は、とある皇国エール工房の娘ですね』
『エール工房?』
『そ、そうよ!あ、あんた、ギムレット商会のハンス商会長!?』
『はい、お久しぶりです。お嬢さん』
『そ、そうか。分かったわ。やっぱり、あんたが黒幕だったのね!』
『黒幕?』
『そこに居る妖精と結託して、皇国エールを潰そうとしてるのよ、許せない!』
『えーと?ハンスさん。話が見えないのだけど??皇国エールって何なの?』
『ああ、カーナ様。皇国エールは妖精印ビールが流行る前に皇国のメインビールだった銘柄です。カーナ様のビールが供給される前までは、その銘柄しか無かったもので』
『なるほど。いわゆるクラフトビールかしら?良いじゃない。美味しいよね、クラフトビール』
『な、何が良いのよ!あんた達のせいで、私達はもう、生活が出来なくなるほど追い込まれているのよ!?』
『え、それはどうゆう事?』
『妖精ビールは、あるみ缶なる入れ物で長期保存が可能だったり、そのまま顧客に出せたり出来て、同じ値段でも顧客に喜ばれてるの。それに対して私達の皇国エールは、木製の樽での納品を基本としているわ。だから、顧客からは敬遠されてしまったのよ!』
『まあ、顧客満足度が高いって事なのね』
『顧客満足度!?』
『あ、こっちの事よ。どちらにせよ、地場の生業を圧迫しちゃったのよね。それも、パッケージの良さで選ばれ過ぎたと』
『???』
『ハンスさん』
『はい、カーナ様』
『彼女の工房に向かうわ』
『はい、カーナ様』
『な、何をするつもり!?うちの息の根を止めるつもりなの!!』
『そんな事はしないわよ。まあ、見てなさい。本来クラフトなビールは、工場大量生産品より受けが良いのよ。実力はクラフトビールの方があるんだから』
『??????』
カチッ
ふーっ
『………………』
冷たい目の雪ウサギは、アンプのスイッチを切ると、ゆったりと運転席に座り直し、空にタバコの煙を吐いた。
今回の事は意外な展開があったが、彼?にとってはどうでもよかった。
なぜなら、彼?は、此処で運転の疲れを癒す為に休んでいただけだったからである。
あとは、趣味のアサルトライフル【アーマライトM16】モデルガンで殺し屋ゴッコをしていただけであった。
こうして彼?の休憩は完了した。
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