第71話 旅立ち?

シャラシャラシャラッ


「♫ワーレはうみの子、さーすらいのーっ、たーびにしあれば、しみじーみとーっ♪」


「カーナ様、変わったお歌ですね?何処の歌ですか?」

「この歌?私の故郷の歌よ、この世界じゃないけど」


「この世界じゃない?」

「何でもなーいわ」


何とかハンスさんを説得して、遂に神の森を脱出です。

ビール工場パート従業員として苦節数ヶ月、パートの雪ウサギおばちゃん達の井戸端会議をへて、ついに此処まで来たのです。

ヤッホーッです。最高です。もう渋い28号の顔を見ないで済むと思うと嬉しくて、嬉しくて舞い上がってしまいますって、本当に舞い上がってしまいました?馬車を三回転半してしまいました。


はう!?

持病の冷え症が復活です。

ヤバいヤバいヤバいです。


ぶるぶるぶる

おばちゃん達に貰った冬毛(一年中冬毛)で、編んだ雪ウサギ毛皮コートは 温かあったかドックリですが、それでも完璧ではありません。

さらに雪ウサギ毛布をはおり、雪ウサギローブで完全武装です。


「ほーほっほっほ、私はもう完璧よ。寒さなんかへっちゃらなんだから!」


「はあ、しかし、そのまん丸着ぐるみは、なんだか只の白い毛玉にしか見えませんが」

「失礼な!雪ウサギ防寒着は無敵の防寒着、ほら、こーやって転がりながら鬼煎餅を噛ったり、転がりながらトイレまで行ったり、全然寒くない!」


「いや、ただ無精なだけでは!?」

「うるさいですね、そんな事だから未だに恋人が出来ないんですよ!」


「それは関係ないでしょう!?」


ハンスさんは今年て32歳になりますが、未だに独身であります。お顔は悪くないのに、全く勿体ない話です。

案外、この国の女性達は見る目がないですね。

あ、私の好みではないですけどね。


実は私、おじ専です。


それもイケおじがグットです。

勿論、先般のアルタクスさんみたいな、目の覚めるような爽やかイケメンも好物ですが、あれは鑑賞用となっておりますので、見ては楽しめますが、やはり結婚となると、幾つかの恋の経験豊富なイケおじがベスト。

やっぱり上手くリードしてくれて、それなりの財をお持ちの方がいいじゃないですか。


うふふふ、今回の旅の目的の一つは、そんなイケおじを見つける事なんですよ。

だからワクワクが止まりませんのよ。


しっかし、さっきから雪ばかりの殺風景な場所が続きますね。全然、観光が出来ません。

つまらない限りです。


「ハンスさん?皇国までは、あとどのくらいなの?」

「そーですね、あと2時間くらいですか」


「とーいぃ!?案外、遠かったんだね!」

「仕方ありませんよ、雪道ですから」


「まあ、そうだね」


一応、馬車はソリタイプにチェンジしてるけど、それでもスピードは上がらない。

冷たい目の雪ウサギの乗る大型トラックは、どういう原理か知らないけど、雪の上を滑るように早いらしい。


ファンタジーだね。


あ、関係ないけどあのトラック、EVなんだよね。プラントの余熱発電を利用した充電タイプだって。


なんでそんなに先進的なの?

こっち、ソリ馬車だよ?

馬車もEVにしてよ!

馬糞公害がどうしようもないよ!

雪に黒い点々が堪んないよ!


ヒヒーンッ

「わ!?」ゴロゴロゴロッボンッ


「何、いったい?転がって荷台の壁にぶつかったじゃない!痛くないけど」


ハンスさんが、馬車を急ブレーキです。

私は、まん丸だから転がっちゃいました。


「い、いえ、急な飛び出しがありまして」

「急な飛び出し?横断歩道があったの?」


「おうだんほどう??」

「あ、何でもない。え、女の子が倒れてるじゃない!交通事故!?」


「こうつう?いや、馬車は当たってないです。随分先て飛び出したのを見ましたから」

「え、じゃあ、当たり屋じゃない?」


「当たり屋?」

「交通事故の詐欺よ、事故を装って賠償金を踏んだくる犯罪よ、私に任せなさい!」


「あ、カーナ様!!」




もう、私のイケおじ捜しの旅……じゃなく、世界漫遊の旅を、のっけから台無しにされて堪るもんですか!

私は毛布とローブを脱いで馬車を飛び出すと、女の子のところに飛んでいきました。



あら?

見たら、まだ10歳くらいの子供じゃない?

ちょっと親は何処よ!?その辺に隠れてるんでしょ、出て来なさいよ!


あ、女の子が気づいた?


「はーい、ハロー?」

「よ!?」


あらら、この子、目が点になってるわ。

どうしたのかしら?


「よ?」

「よう!」


「よう?男の子みたいな挨拶ね」




「妖精だぁーーーーーーーーっ!???」

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