第68話 織姫とオルデアン

とある侍女 視点


ガラガラガラガラッ


私はガルシア帝国皇女こうじょ織姫おりひめ様に支える侍女、伽凛かりんと申します。


このたび、ガルシア帝国が内戦になり、すでに一年が経ちました。


依然として真ガルシア帝国を名乗る叛徒はんとの軍との戦いは続き、国が混乱する中、帝都周辺にも戦火がおよび、危険を感じた皇帝陛下が、友好国であるテータニア皇国へ姫様の一時避難をお願いされました。


テータニア皇国は、2000万人の国民を持つ大陸最大の強国で、なんと国全体を覆う【春の結界】を持つ大変豊かな国家です。

我が帝国が村や町、都市単位で覆う結界しか無い事を考えると、なんとも羨ましく思います。

そして本日、そんなテータニア皇国に姫様が到着する事になったので御座います。

なんと、喜ばし事でありますでしょうか。


テータニア皇国第三皇女のオルデアン様と、我が姫様は、ご友人のご関係にあります。


実は数ヶ月前、そのオルデアン様が皇国の年始の行事の際、真ガルシア帝国を名乗る 叛徒はんと共の襲撃に合い、行方不明になったので御座います。


我が主、織姫おりひめ様は、その時には何度もオルデアン様を捜しに行くと申しまして、仕えている私共を、大変困らせておりました次第です。

ですが数週間の後、オルデアン様の無事の報を頂き、ともに抱き合って喜んだもので御座いました。


そのオルデアン様にも間もなく逢えると思う姫様の喜びようは、私達も大変嬉しく思うものであります。


御姫様おひいさま、間もなくテータニア皇国皇都に入ります。お支度をお願いいたします」

「おお、もうすぐオルデアンに会えるのじゃな。楽しみじゃのう。半年振りじゃな」


帝国皇室平安和装束服をまとい、小躍りしつつ、馬車の窓から先を見つめる 織姫おりひめ様。

その帝国皇室だけに受け継がれる黒曜石の様な瞳と、艶やかな黒髪は膝下まで及び、そのお姿はガルシア帝国皇室皇女として、申し分のない気品を漂わせております。


ガラガラガラガラッ


あ、ついに、テータニア皇国のお城の城門に入りました。間もなく馬車が停車します。


ここは私の出番です。

織姫おりひめ様にはシッカリと、帝国皇女としての品格を持ち、皇国の皆様に御披露目出来ます様、私めが補助して参りませんと、帝国皇室の恥になってしまいます。


「では織姫おりひめ様、馬車を降りましたら、くれぐれも駆け出したり、大きな声を上げたりしてはなりません。ここは帝国ではなく、テータニア皇国です。ハシタナイ行為は全て帝国の恥になってしまいます。宜しいで」

「あ!?オルデアンじゃ、オルデアン!」バタンッ、タッタッタッタッ


織姫おりひめ様!?」


なんという事でしょう。

織姫おりひめ様が、停車した馬車から飛び出して、駆け出して行ってしまいました。

私の話途中で、大声を上げながらです。

危惧した通りになってしまいました。



「きゃあーっ、オリヒメちゃん、久しぶりだわ。嬉しい!!」

わらわもじゃ!オルデアン、元気そうで良かったのじゃ!」


ああ、オルデアン様、織姫おりひめ様、抱き合って、雪ウサギの如く跳ね回っております。

織姫おりひめ様のお転婆ぶりが、際立ってしまいました。

全て、私の責任で御座います。

なんとした事でしょう!


しかし、オルデアン様も負けず劣らずのお転婆ぶり。

それがせめてもの救いでしょうか。

あちらの侍女の方も困り顔で、つい目が合ってしまい、お互いに苦笑した次第です。


「オリヒメちゃん、スッゴク美味しいお菓子があるの。こっちよ!」

「なんと、スッゴク美味しいとな!?待つのじゃ、オルデアン!」


あああ、お二人でおごそかな宮殿をバタ足で駆けて行かれてしまいました。

気品も何も、あったものではありません。


帝国の気品が、只の子供の駆け足になってしまいました。

皇帝陛下に何とご報告致せば宜しいのでしょうか。私はその場に座り込み、頭を抱えてしまいました。


「お付きの方々、私共のオルデアン様が大変申し訳ありませんでした。本来なら、きちんとした形での出迎えの式典を開くはずでありましたが、大事な オリヒメ様を勝手に連れ出したオルデアン様により、式典は開けなくなりました。ついてはお詫びと、こちらに接待室を用意しておりますので、どうぞ、そのままお進み下さい」


まあ、なんて礼儀正しいお方でしょうか。

護衛騎士のようですが、爽やかな笑顔が印象的な男性が現れました。

しかも、儀礼的とは申しましても、この不手際を私共の責任とせずに、この場を取りまとめ、さらに私共に気遣いまで頂けるとは有難い限りです。

それになんと、帝国皇室と同じ黒髪と青い美しい碧眼の美青年、眼福です。


あ、行ってしまいます!?

せめて、お名前をお聞きしとう御座います!


「あの、もし、お名前を教えて頂けますでしょうか?私は織姫おりひめ様付きの侍女、伽凛かりんと申します」

「はい、これは失礼致しました。私はオルデアン様付きの護衛騎士、アルタクスと申します。それでは!」


ああ、行ってしまいました。


アルタクス様。

何と素敵な御名前なんでしょうか。


ああ、顔が熱い。



私、伽凛かりんは、どうやら恋をしてしまったようで御座います。

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