第69話 日常

さて、今日は嬉しい給料日です。


毎月10日締め25日払いです。

現実的で夢がありませんが、定期的に入る、お給料は生活基盤でありますので、なくては困るものでもあります。


今日ばかりは、家庭不和の雪ウサギおばちゃんもウハウハで、いつもの かげがありません。

やっぱり明るい事は良い事です。

いつもは暗い工場警備員の駄犬だけんさん(フェンリル警備会社りるそっく社員、ヒューリュリ様です)も何故か、マイ▪ジョッキ片手に嬉しいみたいです。



「おばちゃん、今日は機嫌が良さげですね」


『アラ嫌ダ、かーなチャン。今日ハ給料日デショ、居酒屋ろぐはうすデ飲ミ会ヨ。かーなチャンモ来ルデショ?』

「あ、はい。でも旦那さん、よろしいんですか?」


ああ、言ってはいけない事だったようです。

雪ウサギおばちゃんは、みるみる背後に黒いモヤを溜めてしまいました。

絶頂から谷底に叩き落としてしまったようです。我ながら罪な妖精です。

それとも才能?

前世、社畜時代(今も社畜)もそうでしたが、私は一言多いようです。癖のようなものでしょうか。

格言、人の不幸は蜜の味。

あれ?格言だっけ?


『……かーなチャン、今日ハ付キ合イナサイヨ』

「あ、はい。でも、28号社長にも誘われてるので、長くは居られませんが」


バシッ


柔らか肉球が、私の羽根をゲットしました。

これでは身動き出来ません。

強制的に三次会までお付き合いだそうです。

今回は、私の羽根に吐かないで欲しいのですが。


そうそう、パート社員のお給料はビール樽、3個と、ビール酵母パン、1ヶ月分です。

給料は物納が基本給ですので、あとは場合によりビール券を頂ける事になっております。


因みに私は一応、正社員でありますので、旅行費用捻出の為、物納の他に皇国貨幣で頂いております。

商品アドバイザーのハンスさんと、ビール販売営業兼異世界漫遊旅行をする約束が有りますので、その時の為に貯金中です。


『男ナンテ、ミンナ若イ女ガイイノヨ!スケベデ最低、アンタモ、変ナ男二引ッ掛カルンジャナイワヨ!男ハ、けだものヨ!』

「はい、そうですね」


聖獣せいじゅうである雪ウサギおばちゃんが激白です。やっぱり聖獣せいじゅうは、けだものとは違うのでしょうか。毛むくじゃらだし、肉球だし、私には 聖獣せいじゅうけだものの区別はつきません。


彼女の旦那は、隣の アパート巣穴に越して来た若いメス雪ウサギのところに入り浸りで、もう一週間も彼女のところに帰ってこないのだそうです。

お子さんが8羽もいて、これから物入りなのに、困った旦那さんです。



さて、居酒屋ログハウスに到着です。

さっそく、ちゃぶ台をかこんで、雪ウサギおばちゃん達の飲み会のスタートです。


あ、向こうのオス雪ウサギの集まりは、鬼煎餅を両手に、股間隠しの下品な踊りを始めました。すでに出来上がっているようです。

他のお客の迷惑になりますので、誰か、注意に行った方がよいでしょうか?


パンッ、パンッ


あ、何でしょう!?

突然の銃声です。

下品な踊りを始めたばかりのオス雪ウサギが撃たれたようです。

店の中は騒然としています。

犯人は……そこのM16アサルトライフルを持っている冷たい目をしたオス雪ウサギでしょうか?


おっと、埼玉県警と書いてある藍色チョッキを着た雪ウサギ達が店に雪崩れ込みました。

アサルトライフルを持ったオス雪ウサギを捉えた様です。


ボサボサ頭のヨレヨレトレンチコートを着た、短いシケモクを吸っているオス雪ウサギが現れました。


刑事でしょうか?

冷たい目のオス雪ウサギの前を行ったり来たりと、なにやら動機を推理しているようです。


あ、どうやら推理の結論が出たようです。

冷たい目のオス雪ウサギは、冷たい目のまま一言も喋っておりません。


あ、はい。

どうやら推理が当たった様です。

冷たい目のオス雪ウサギが頷いています。

何でも、背後に立たれたので撃ったと!?


とんでもないテロリストです。

でも、その凶悪殺人犯が捕まって良かったです。皆が安堵しております。


え!?

撃たれた筈のオス雪ウサギが立ち上がりました!しかも、股間隠しの下品な踊りを始めています。

ああ、その場で埼玉県警のオス雪ウサギ達に捕まってしまいました。


罪状は、わいせつ物陳列罪と迷惑防止条例違反だそうで、こういうのを踏んだり蹴ったりと言うのでしょうか。

でも股間は一応、自毛で隠れておりますので、情状酌量の余地はあるでしょう。



こうして私の【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】内の日常は過ぎていくのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る