第65話 妖精印ビール工場
ブロロッ、パアアンッ
『ハイ、オーライ、オーライ、ハイ、ストップ』
ピーッ、ピーッ、ピーッガチャガチャ
大型10tトラックが着車し、其処にサングラスの雪ウサギ達が、フォークリフトで次々とパレット上のビールケースを乗せていきます。
危なげ無く行われていく出荷作業。
雪ウサギ達は、あっという間に運転方法をマスターし、すっかり妖精印ビール会社の正社員となりました。
昨日まで派遣社員だったのが嘘のようですって!?
『
「雇用主は雪ウサギの早い正社員化で、人件費高騰に頭が痛いのです」
『正社員化?』
「正社員になるとボーナスを出さなければならないし、退職金の積み立てもしないといけない。
『
「
うう、雪ウサギの適応力を甘く見てました。
まさか、ここまで使える者達とは!
今、雪ウサギ達の給与は現物支給ですが、生産数の確保の為、派遣社員扱いの小ジョッキのままで我慢して貰ってました。
けれど人事担当雪ウサギからクレームが入り、現在の雇用スタイルを維持するなら、
なんたる理不尽。
経営者に人権はあるのでしょうか。
なので、支出が増えたら売り上げでカバー、明るい家族計画始めます。
『今日ノ注文ハ皇国皇都向ケ、10万ケース。明日ハ皇国北部へ7万ケース。来週ハ隣国ガルシア帝国二20万ケースノ予定デス、女王様』
「よし、よし。ハンスさん?今週の収益見込みは、如何?」
「取り敢えず途中集計ですが、白金貨一枚は固いでしょう。」
「白金貨!?」
白金貨 ▶平民の数年分の年収 (一千万円?)
おお!ロミオ、あなたは、なんでロミオなの!?
やりました。
妖精印売り上げ新記録です。
ついにここまできました。
この売り上げ増はモルト君のプラントのお陰ですが、彼を見出だし活用した経営者の人徳と頑張り、つまり私のお陰という事に他なりません。
何しろ生産数の確保は、プラント運用の効率化とモルト君の使いどころを決め、雪ウサギを日勤、夜勤に分けての24時間フル稼働。
そうして工場を軌道に乗せた数週間。
指導者たる私の手腕が今日の結果を産み出したと云えるでしょう。
拍手!パチパチ。
当然ながら役員報酬を一気に2倍、いや3倍にするのは許されるはず。
こうして、私の異世界一週旅行積み立は順風満帆。
今後は不労所得でウハウハです。
ほほほ、これだから社長業は止められない、止まらない、かっ○えびせんですわ。
バタッ
「きゃあああ、モルト君!?」
大変です。
モルト君が倒れてしまいました。
一体、何故!?
『……
◆◇◆
何という事でしょうか。
モルト君のプラントは、モルト君が起きていなければ稼働出来ないしろものでした。
つまり24時間稼働などしたら、彼は眠る事が出来なかったのです。
結局、雪ウサギ達の職場改善ストライキもあり、稼働時間短縮に追い込まれました。
もう笑うしかありません。
あははっ
「カーナ様、も、申し訳」
「モルト君、もういいの。ぐっすり眠って。増えていく出荷量に無理に対応する必要性はなかったのよ。生産キャパ以上に仕事を取った私が悪いの。従業員の健康管理も出来ない愚か者だった。経営者失格ね」
「ぐー、ぐーっ、ぐーっ」
「…………」
こうして
後任には何故か28号が就任し、私は秘書兼従業員として再雇用されました。
◆
『オラオラ、きりきり働ケ。サモナイト、ビールハ無シダ!』
「わ、分かってるわよ、大麦召喚!」
私が手を突きだし召喚を唱えると、目の前の荒れ地が麦畑に変わりました。
それを、待機していた軍ヲタ率いる雪ウサギ軍団が一矢乱れず横隊隊列で刈り取っていきます。
「ではプラントの稼働を開始します。全システム、オールグリーン。稼働!」
ギュイイーン、ガコン、ガコン、ガコン
復活したモルト君の号令で再び稼動を開始するフルオートメイションプラント工場。
次々とコンベアからビールケースが流れて来て、雪ウサギ達が出荷作業を開始します。
私もヘルメットを被り、雪ウサギに混じって汗だくですが、頑張ってケースをパレットに積み込む手伝いをしています。
ある程度の高さに積み込んだらケースをラップ巻し、フォークリフトを使い、パレットを持ち上げます。
そして大型トラックに、どんどん積み込んでいくのです。
1日八時間勤務。
一週間40時間内労働。
これが今の私の姿。
ピロンッ(夢がありません)
キンコンカンコーン、カンコーンキンコ~ン
お昼になりました。
昼休みの時間です。
昼休みは45分間ですので、皆と急ぎ休憩所に向かいます。
この工場の良い所は、昼食のお弁当が無償で従業員に出る事です。
実に良心的。
今日のお弁当はモルト君印、ホップの天ぷら弁当です。
大変苦いですが、珍しいお弁当ですので有りがたく頂きます。
「アンタ、新入リ?慣レル迄、大変デショ?」
「ええ、まあ……」
私がお弁当を食べていると、隣に座った気の良さそうな雪ウサギおばちゃんに声をかけられました。
なんでも来年お孫さんが生まれるらしく、その娘に何か買って上げたいそうです。
「最近、物価モ上ガッテルデショウ、イロイロ物入リデ大変ナノヨ」
「そーですよねぇ」
「ソレデネ、娘二何カ送リタインダケド、何ガイイカシラ?貴女、娘ト同イ年に二見エタカラ、流行ノモノナンカ分カルカナッテ思ッテ聞イタンダケド」
「娘さん、お幾つなんですか?」
「今年デ
そっか。
私って年齢が一歳なんだけど、見た目が20歳の雪ウサギと変わらないのね。
こういうのを若年寄っていうのかしら?
ピロン(違います)
「あら、お若いんですね。なら、赤ちゃんの
「アラ、良イ考エネ。買イ物に迷ワナイデ済ンダワ。有リ難ウ」
「いえいえ」
キンコンカンコンッ、キンコンカンコンッ
始業の鐘がなりました。
午後の操業が始まります。
皆が持ち場に付こうと、食堂を出ていきます。
さあ、私も頑張らないと!
妖精印ビール工場。
それは人知れず神の森奥地にある、不思議な不思議なビール工場。
ビールの味は間違いなく絶品。
最高のビールを作る妖精印のビール工場。
明日にはアナタの家にも、至高の1本が届くかも知れません。
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