第64話

◆テータニア皇国

皇都 皇城


皇女 オルデアン 視点



テリアにお願いして数日後、小さな紙で出来た小箱が届いたの。

これは見た事があるわ!

でも、なんで小箱を、お母様に渡すの!?


「テリア、テリア、その小箱、スプリング・エフェメラル様からの贈り物ですわね?何故、お母様にお渡しになるの!?」


「オルデアン様が森の中で、どの様に過ごされたか、アルタクス様と私で皇王様、皇妃様にお伝えしております。皇妃様からは今後、スプリング・エフェメラル様からの贈り物は、全てチェックをされるとの事、暫しお待ち下さい」


え!?

ま、待って、待ってよ、テリア。

それを、お母様が見たら、嫌な予感しかしないわ。

「テ、テリア?その箱の中は、神の食べ物なの。中に六個、入っている筈よ。お母様に渡す前に一個は置いていって欲しいわ!」


「申し訳ありません、皇妃様から固く命じられております。まずは皇妃様、その後がオルデアン様です」



「テリア!?」


テリアは箱だけ見せると、ワゴンに乗せたまま、部屋を出て行ってしまう。

だ、駄目よ、駄目、駄目!

お母様に渡したら、無くなっちゃう。


こうなったら、テリアの後ろから付いて行くしかないわ!

私は、こっそりテリアの後ろから、壁際に隠れ、後を追いかけたの。


「あ、オルデアン様、お早う御座います。今朝は早起きですね?」


「あ、アルタクス!しーっ、私は居ないの。隠れてるんだから、声をかけちゃ駄目!」


アルタクス、声が大きいの。テリアに気づかれちゃう!


「オルデアン様」


「ひゃい、テ、テリア!?」


アルタクスと話してると、背後からテリアに声をかけられてしまったの。部屋を抜けだしたのがバレてしまったわ!


「はあ、オルデアン様、間もなく家庭教師の先生がお部屋に伺うのでは?」

「せ、先生には、待ってて貰う予定なの。や、約束したの」



「そのような嘘を……確か、宿題が出てましたね。ちゃんと、やりましたか?」


「や、やったわ」


やってないけど、やったと言わないと部屋に戻されちゃう。


「ほう、流石、オルデアン様ですな。私が出した宿題では物足りなかったとみえる」


え、この声は!?

そこに現れたのは、片眼鏡に黒マントで白ヒゲのおじいさん。

家庭教師のケルナグール先生!


「これは、ケルナグール先生、お早う御座います」

「お早う御座います、ケルナグール先生。今、着かれたのですか?」


「おお、アルタクス君、テリア、お早う。そうじゃな、たった今じゃ」


うう、家庭教師のケルナグール先生、なんでここにいるの!?に、逃げないと!

私は踵を返し、部屋に戻ろうとしたの。


「オルデアン様」


「ひゃい!?」


ケルナグール先生に呼び止められた?!

私が振り返ると、先生は笑いながら私に言う。

「オルデアン様、私も参りますゆえ、慌てずとも大丈夫じゃ。それに宿題は終わっておるのでしょう?急ぐ必要はないですぞ」


「せ、先生!?」


うう、ケルナグール先生に嘘は通じないの。

もう、言うしかないわ。


「ケルナグール先生、ごめんなさい。宿題の話しは嘘でした。まだ、終わってないの」


「ほう、ちゃんと謝れましたか。エライ、エライ」



「え、先生?」


「オルデアン様、嘘は分かってましたよ。ですがその嘘を認め、謝れる事。これは、中々出来ない事です。特に人の上に立つ者は、その事を決して忘れてはなりませぬ」



「は、はい。ケルナグール先生」


よかった。

先生は笑いながら、頭を撫でてくれたの。

もう、嘘はつかないわ。


「ではオルデアン様、宿題を忘れた罰として、部屋に戻りしだい、計算問題を百問追加じゃな。この問題集を持って部屋に行きなさい。ワシは皇王様に挨拶せねばならんならのう、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ」


バサッ

渡された問題集、厚みがあって重いの。

一番苦手な計算問題が百問………


「では、ケルナグール先生、わたくしと、ご一緒に参りましょう。丁度、皇妃様にお会いするところでしたので」


「おお、侍女どの、左様でしたか。ワシも少々、報告が御座いますれば、ご同行という事でお願いいたしまするのじゃ」



ああ、テリアが行ってしまう。

神の食べ物が行ってしまう。


「では、オルデアン様、お部屋に戻りましょう」

「アルタクス、お願いがあるの」



「オルデアン様、お願いですか?」


「そうなの。テリアとお母様から、神の食べ物を貰ってきて欲しいの」



「神の食べ物、プーリン?だったでしたか。テリアが持ってるのですか?」


「そうなの。知り合いに森に行って、スプリング・エフェメラル様に貰って来てくれたの。お願い、アルタクス」



「知り合い?……我々以外に彼の地を知る者がいると……ふむ、分かりました。テリアに話しをしましょう」


「きっと、きっとよ、アルタクス」



「はい、オルデアン様。では、お部屋に」


良かった。

アルタクスは何時も、私の言うことを聞いてくれるの。ありがたいわ。

あ、そうだ!



「アルタクス、その、宿題をやって欲しいの」

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