第54話 宿題

さて、ビールは発酵の仕方で呼び名が変わります。


ビール造りにおける発酵は、「上面発酵」「下面発酵」「自然発酵」の3種類に分類できます。


上面じょうめん発酵

古くからのビールの造り方。酵母が麦汁の表面に浮き上がっていくのでそう呼ばれる。常温〜やや高温で発酵し、発酵期間は3〜4日。


下面かめん発酵

中世以降始まった造り方。酵母がタンクの底に沈んでいくのでそう呼ばれる。5度前後の低温で発酵し、発酵期間は7〜10日。


◇自然発酵

培養されていない野生酵母を使った造り方。今では数多くは造られていない。


余談ですが、上面発酵で造られるビールを「エール」、下面発酵で造られるビールを「ラガー」といいます。


それで、日本で販売されていた主なビールは、基本的に下面発酵で造られていました。

理由は、低温発酵なので雑菌が付きにくいからです。つまり、ラガービールが殆んどだった訳ですね。

で、私が選ぶ発酵はラガーマンです。じゃねーよ、ラガービールです。

つまり下面発酵。

理由は、【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】の外は雪、雪、雪で低温であります。

まさに下面発酵的な環境と言えるでしょう。


てな訳で、ラガーマンに突撃だーい!


あれ?



◆◇◆



◆テータニア皇国

皇都 皇城


皇女 オルデアン視点


御使みつかい様と別れ、皇城に戻って数ヶ月が経った。

私は今、皇城でお勉強の毎日なの。もう、息が詰まるわ。また、御使みつかい様のところのお花や、神様の食べ物、プーリンが食べたい。


「皇女様!お聞きになっておりますか?窓の外ばかり見てらして、そんなに私の授業が面白くありませんか?」

「マ、マダム▪メイビス!?」


「神の森から戻られてからというもの、皇女様は溜め息ばかり、そんなに神の森は楽しかったのでしょうか?」

「…………いえ」


「ふうっ、皇女様、今後もこの様な授業態度であれば、王妃様にお伝えしなければなりません。よろしいですか?」

「すみません。マダム▪メイビス。授業態度は直します」


「そうして下さい。では、次回の授業までに宿題として、皇国の歴史、三百二十三ページの暗記をお願い致します。いいですね?」

「……はい」


マダム▪メイビス、私の家庭教師。

やっとその授業が終わって、マダムが部屋から出ていったの。

マダムって、すぐ怒るし、うるさいの。おまけに、授業態度をいつもお母様に報告するって脅すし、本当に嫌い。

ああ、また御使みつかい様に会いに行きたい。プーリンを食べながら、綺麗なお花を見ていたい。

プーリンはお城の料理長に、似た物を作れないか、お願いしたのだけれど、出来たものは、結局、パサパサのパンケーキだけ。

うう、プーリンが食べたい、プーリンが食べたい、プーリンが食べたい!


アルタクスから 、御使みつかい様の事は内緒にしますって言うので、誰にも言っていないけど、どうにかならないかしら。


お母様も、お父様も、神の森での襲撃騒ぎで私が行方知れずになって以来、私がお城の外に出る事を許してくれないから、本当に困ったわ。


そうだ!


テリアに言って、御使みつかい様から、お花とプーリンを貰ってきてもらえればいいのよ。何で今まで思い付かなかったのかしら?これしかないわ。オルデアン、最高のアイデアよ。直ぐにお願いしよう。


「テリア、テリアはいる?」


「はい、オルデアン様、お呼びですか?」


隣の侍女控え室からテリアが来てくれた。

さっそく、私のアイデアを伝えるわ。


「テリア、御使みつかい様のところに行って、お花とプーリンを貰ってきて欲しいの。お願い出来るかしら?」

「オルデアン様、私は侍女としてオルデアン様から離れる事は出来ません」


「誰かに頼めないの?アルタクスはどうかしら?」

「アルタクス様は近衛です。私よりオルデアン様から離れる事は出来ません」


「ああん、なら、どうすれば、お花とプーリンを貰って来れると言うの!?」

「オルデアン様、もう、あの方の事はお忘れ下さい。危険です」


「テリア?何でそんな事を言うの? 御使みつかい様は良い方だし、神様の使いよ。駄犬?は怖いけど、御使みつかい様は危険ではないわ。お願い、テリア。二人が動けないなら、他の誰かに頼んで欲しいの。お願いよ!」

「……わ、かりました。誰か、に頼んでみます。ですので、オルデアン様。くれぐれも私共以外の方に、その話しはなさらないようにお願い致します」


「分かったわ。お父様にも、お母様にも、お兄様にも、今まで黙っていたんだもの。これからも秘密にする。だから、お願いよ」


「はい、お願いは聞きました。ではオルデアン様。私のお願いです。マダムからの宿題を忘れずに始めて下さい。マダムから頼まれております。ちゃんとオルデアン様に宿題をやらせるようにと」


「え、ええーっ!?今、マダムの授業が終わったばかりなのに?」

「何事も予習、復習です。授業の内容を忘れない内に宿題も済ませてしまいましょう」


テリアは授業で使う歴史書を開いて、私に見せてきたわ。いつからテリアはマダムの仲間になったの!?



わあああんっ、勉強、嫌い!

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