第53話 ビールマスター

◆あれから3ヶ月が経ちました。


大麦はすっかり小麦色、ついに収穫時期を迎えました。たわわに実った大麦は、その重さで恥ずかしそうにお辞儀です。

良いですね。

私、今は最高の気分です。

気力メーターも100ですし、ここは一気に【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】を広げても良いかも知れません。


「さて、さて、皆さん。きょうは大麦の収穫の日。お手伝いをお願いしますね」


私がニコニコして雪ウサギ団体さんにお願いしていると、数羽の雪ウサギが手を上げました。別に質疑応答の場ではありませんが、手を上げているのを無下には出来ません。


「はい、そこの方。質問をどうぞ」


私が一人、いえ、一羽の雪ウサギを指差して伝えると、その雪ウサギは何故か、敬礼しながら立ち上がりました。思わず私も敬礼しちゃいました。何者!?

「今回ノ作戦ハ大隊規模だいたいきぼデアリマスカ?」

「は!?作戦?だいたいきぼ??」


「我ガ軍ハ現在、東部戦線二テ膠着こうちゃく状態二アリマス。コレヲ好転サセルニハ大隊規模ノ投入シカアリマセン。小生しょうせいハ、大隊ノ投入ヲ進言スルモノデアリマス」


このウサギさんは一体、何と戦ってるんですかね?訳が判りませんので、単なる軍オタで処理しますね。

「えーと?さよなら。はい次の方、どうぞ」


「痛イノハ嫌ナノデ防御力二極振リ」

「好きにして。はい、次の方」


「チキータでチキータを返シテ見セマス」

「出来ねーだろ、張本に謝れ。はい、次」


「貴女ハ神ヲ信ジマスカ?」

「紙だけに、トイレットペーパーの安売りは信じるわ。はい、次!」


「ワレワレハ宇宙人ダ」

「はい、次……」


アイアムアペン私はペンです

「はい……」



…………殆んど質問ですら、ありません。

雪ウサギの戯言たわごとを真面目に聞いた私がバカでした。


ピロンッ

『気力が120削られました。現在気力はマイナス20です』


ああああ、マイナス20って、マイナスもあるのね……

バナナで釘が打てる、じゃなくて?!


はあ、はあ、はあ、雪ウサギのペースにハマりました。まるで蟻地獄ありじごくです。

こんなん反則やん!

気力についてはもう、いいです。


今、必要なのは大麦の収穫です。

私に求められるのは、この雪ウサギ軍団を上手く使う事に違いありません。

こうなっては、秘密兵器を出すしかありません。

「えーっ、ヒューリュリ様。どうか、お力添えをお願い致します」


私は雪ウサギの後ろで、成り行きを見守っていたヒューリュリ様に声をかけた。

居候なんだから、たまには働いて貰いましょう。

あるじ、何をすればいいのだ?』


「あの大麦を、上手く刈り取って下さい」

『お安いご用だ』


ヒューリュリ様は立ち上がると、風の魔法を発動する体勢をとり、叫びました。

『ウインド▪カッター!』


シュパパパッ


おお流石、ヒューリュリ様。

お見事に大麦を、付け根付近からバッサリです。やっぱり頼るべきは、ウサギより駄犬でしょうか。


しかしこれからの刈った大麦の回収作業、脱穀作業、粉ひき作業と、いろいろと仕事が目白押しです。猫の手も借りたい状況で、ウサギの手を借りないという選択肢はありません。

「はい皆さん。まずは伐採された大麦を回収!食べちゃ駄目よ」

「「「「「「アイアイサー」」」」」」


はい、あの軍オタを先頭に一列横隊で、大麦を回収していきます。なかなか手際がいいですね。敬礼が気になりましたが、ここは大目に見ましょうか。


さて、皆さんが大麦を回収している あいだに、私は亜空間収納から千歯扱きせんばこきを取り出します。

何で持っているのかって、まあ、何時もの様にナビちゃんが用意してくれました。


さっそく軍オタに命じて、部隊を脱穀班と粉ひき班に分けました。もちろん、石臼いしうす唐箕とうみ完備です。

「「「「「ジャンジャン脱穀、ジャンジャン脱穀」」」」」

「「「「「殻、殻、吹キ飛バシ、殻、殻、吹キ飛バシ」」」」」

「「「「「コーナーヒキヒキ、コーナーヒキヒキ」」」」」


掛け声がビミョーですが、順調に作業は進んでいます。さて、私は次の作業です。


ビールは、製麦、仕込、発酵、貯酒、ろ過 という工程で作られます。

収穫した麦を、約10日をかけて麦芽にします。 ようは麦をちょっと育てて、文字通り麦もみから芽が出た状態。麦芽は仕込を経て麦汁になり、そこに酵母を加え約7日で発酵させます。


さて、そんなウンチクは置いておいて、私にはすでにナビちゃんから貰ったビールセットがあります。この中に製造キットがありますので、手軽に、ご家庭で、ビールを作る事が出来るのです。

あ、どうでもいい事ですが、日本においては酒税法があますので、アルコール度1パーセント以上のお酒を勝手に作る事はできません。なので、1パーセント以下でビールを作れば酒税法に引っ掛からないのです。


それではさっそく、仕込みをやってしまいましょう。今日から私はビール職人。


最高のビールマスターを目指しましょう!!

えい、えい、おーーーーーっ!


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