第43話 テリア

◆カーナ▪アイーハ視点


さて、期待外れなテイマーのスキルは置いといて(何を期待していたのか?)、三人のところに急ぎましょう。

それにしても、こうして菜の花林を歩いていると、昔懐かしの蜜蜂みつばちアニメを思い出しますね。一応、子供向け冒険物でしたが、あのアニメの世界観は、私が体験している、この現実そのものに他なりません。

スズメバチの攻撃が、子供ながらに恐ろしくて、アニメを見た後に、布団の中で震えていたのを覚えておりますね。

全く、タツノオトシゴプロの作るアニメは、子供の感性で見るには、早いと思いましたよ。なんかアメリカンコミックしてて、特に火薬忍者隊ギッチョマンなんか、怖かった。

まあ、三角、四角の部下が出るタイムマシン物は面白かったですけどね。

ちょっと脱線しましたけど、もうすぐ菜の花林を抜けます。


さあ、三人に逢いに行きましょうか。



◆◆◆



◆テリア視点


『お母さん、このお花、触っていい?』

『駄目よ触っては!手が気触かぶれるわ。これは毒の花よ!』


『お母さん、お本で読んだお話では、お花で髪飾りや花の王冠を作るの。主人公はそうして遊んでいるの。なら、どの花が手で触れるお花なの?』

『テリア……ごめんなさい。そんなお花は、もう、この世にないの。みんな枯れてしまったのよ』


『枯れてしまった?なら、この沢山咲いている黒や灰色のお花は……』

『全部、毒。毒の花よ。使い方によって薬になるのだけれど、直接触る事は出来ないわ』


ザァアアアアッ


風が吹いて、お花畑が揺れている。黒や灰色だけの毒の花。物語に出てくるお花は、みんな赤や黄色、色とりどりと書いてあるのに、私とお母さんが生きている世界には、そのお花はもう無いの。

ああ、一度でいい。そんなお花を見てみたい。この世界は色が少ないから、もっと綺麗きれいなものを見たいわ。



▩▩▩



『残念、そうなんだ。いつも二人で読んでいたあのお話、嘘なんだね』

『ライラ、ごめんなさい。私、知らなかったから』


『ううん、テリア。貴女のせいじゃない。きっと、悪い人達がいたから、神様が見捨てたんだわ』

『悪い人達……?』


『昔、人間の中で、とっても悪い人が居て、神様が大事にしていたものを奪ったから』

『神様?大地の神の?』


『ううん、それは世界の神、ラーデ▪アテーナ神の事でしょ?そうじゃなくて、この国の守護神で春と花の神、スプリング▪エフェメラル様の事。昔、そのスプリング▪エフェメラル様に悪い事をした人間がいて、それからこの国では毒の花以外、咲かなくなったって、お母さんが言っていたの』

『お母さん……三年前に行方不明になった?』


『そう、お母さん。でもテリア、お母さんは行方不明になったんじゃないよ』

『そうなの?じゃあ、ライラのお母さんは何処かにいるの?』


『うん、父さんは、もう死んでるから諦めろって言ってたけど、私はお母さんが歩いていたところを見た事があるの』

『そうなんだ。じゃあ、何か理由があって、一時的にライラのところから離れたのね』


『そうよ、お母さんが私を見捨てる訳はないんだから!ね、そうでしょう?』

『そうだね。ライラのお母さん、優しかったから、きっと必ずライラの元に戻ってくるよ』


『有り難う、テリア。テリアは私の親友、ずっと一緒でいようね』

『そうだね、ライラ。ずっと、ずっと親友だよ。死ぬまでずっと、ね!』


『テリア、大好き!』

『私も大好きだよ、ライラ』



▩▩▩



『テリア、よく聞いて』

『どうしたの?お母さん』


『昨日は満月の日だったわね』

『うん、だからよく戸締まりをして、お外に出なかったよ』


『お隣のライラちゃんが、夜に外に出たらしいの』

『え?』


『だから、もう会えないわ』

『な、んで、そんな!?』


『……あの子のお母さんも満月で居なくなったから、きっと窓からそのお母さんが見えたのね。だから、外に出てしまった。彼らは、僅かな記憶が残るから、どうしても知人や愛していた者のところに来てしまうの』


『そんな、ライラ、ライラ!親友だったのに!』

『だから、いい?テリア、よく聞きなさい。次の満月の日。たとえ、ライラを見かけたとしても、決して家の外に出ては駄目よ。貴女もの仲間になってしまう。そうなったら、未来永劫さ迷い、人間を襲わずにはいられない。分かった、テリア?』


『ライラ……』



▩▩▩



この、私達の住んでいるテータニア皇国は、世界で一番豊かで、人間の多く住める強国なんだそうだ。他の国は、寒い雪に閉ざされているか、【生け贄】の力に頼った、偽りの春の中で、かろうじて生きている。

だから、何処よりも幸せで、安心して住める国の筈なのに、この国に住む人達の顔は、何処か、暗い。

理由は分かっている。この国は呪われているのだ。その呪いが人々の顔を曇らせる。そして、その呪いは、愛する者の命を奪いにくるのだ。かつて愛した者は、そのどうしようもない カルマによって、未来永劫、苦しみ続ける事になる。



▩▩▩



そして私、テリアは、その次の満月の夜、変わり果てた親友を見る事になる……。


『ラ、ライラ!!!?』





【テ、リ、ア、こっち、に、き、て】

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