第38話

カーナ視点


は?

今の男の声は何?、って、その前にオルデアンちゃんが悲鳴を上げてるんだけど、これはもしかしたら、オルデアンちゃんの話しにあった盗賊かも知れません。

私は、オルデアンちゃんにシーッと指を立てて、静かにするようにゼスチャーしました。オルデアンちゃんは直ぐに理解して、両手で口を押さえながら、コクコクと頷きます。


では!盗賊の顔を拝んでしんぜよう!


私は後ろを振り返り、まじまじと凝視します。するとそこには、木々の合間から雪を掻き分けつつ、此方に向かって来る黒装束の男達が見えました。

それで、その先頭のリーダーっぽい人なんだけど、毛皮を着た蛮族ばんぞく風の鎧?みたいな服を着てるんです。なんかワイルドで、え?黒髪、黒目の男前じゃない?!悪くないわ。って、この人が盗賊なのかしら?んん、なんか調子狂うわね。


「おい、今、確かに聞こえたよな!?」

「い、いえ、我々は特に分からなかったですが?」


「くそ、この役立たず共が!」

あらあら結構、短気な御仁だわ。やっぱり盗賊の仲間なのかしら。ん~っ、どうしましょ。向こうは此方が見えないから、音を拾うしかないんだけど、こっちからは丸見えです。あと、【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】は、結界で守られていて、外から入るには、私が許可した人しか入れません。ヒューリュリ様がいろいろ教えてくれたから、この【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】の特性?が分かっているので、全然問題ありませんね。なんか、此方が安全と分かっていると、動物園の猿を観察している気分でいけますね。オルデアンちゃんは、まだ怖がってますけど、私が親指を立てて、大丈夫宣言でオルデアンちゃんに頷ずきます。

ふふ、泥舟どろふねに乗った気分で?あれ?大きな船だったかな?じゃあ、タイタニック大舟に乗っている気分でいれば、沈む事は問題ないのです。

しかし、よく此処が分かりましたね?どうやってたどり着いたのでしょう。


「くそ、どうなってやがる?!魔道具は間違いなく此処ここを指しているのに、何も無いじゃないか!」

え?

何ですか、あの光っている小さなしずくちゃんは?ワイルドな男が左手に持っている宝石みたいな物が、青く輝いています。

んん?

なんか、オルデアンちゃんの方に向けると、光が強くなる?方位磁石ですか、あれ?

私は暫く、男の宝石とオルデアンちゃんを見ていたのだけど、オルデアンちゃんの胸元も、何となく青く光ってます?私はオルデアンちゃんの耳元まで飛んでいくと、オルデアンちゃんにささやきます。


『オルデアンちゃん、その胸元に何かあるの?』

『は、はい。これ、お母様に貰ったお守りのペンダントです』

オルデアンちゃんは、ジャージのチャックを少し下ろして、青白く光るペンダントを見せてくれました。なるほどね。安否確認機能付きペンダントかしら。アッチが受信機という事ね。けど、あの男が持っているという事は、オルデアンちゃんの関係者から奪ったという事です。うぬぬ、いくら男前でも悪人なら許すマジです。


「騙しやがったな!あの女を連れてこい!」


あの女?まさかオルデアンちゃんの関係者が捕まっているの?!



「オラッ!」ドカッ、「う、ぐ!?」

ドサッ


「?!」、『テリア!』

危なかった!

オルデアンちゃんが叫びそうになって、慌てて私がオルデアンちゃんの口を塞いだから、何とか奴らに聞こえなかったけど……。

何て事!

あの男の部下の黒装束が、腕から血が出ている真っ青な顔の、体調の悪そうな女性を連れて来て、雪の上に引き倒した!?

酷い、警察は何処よ?百十番ひゃくとうばんよ!!


「この役立たずが!おい、コイツ、随分弱ってるな。いったいどうした?」

「はい。どうやらこの者を襲ったのは、大毒おおどくネズミのようです。ネズミの毒の爪にやられていたのでしょう。熱で 朦朧もうろうとしています。もう長くはありません」


茶髪の黒装束が説明してるけど、ネズミの毒!?ちょっと、大毒おおどくネズミってヒューリュリ様が持ってきた、あのドブネズミじゃないですか!

やっぱりです。これで確信に変わりました。

オルデアンちゃんの夢に出てきたのは、あの 大毒おおどくネズミだったんです!オルデアンちゃんのトラウマと、私のトラウマは一緒だったんです。うう、玉男たまおとヒューリュリ様がオーバーラップして、手を繋いで踊り子をしています。

頭痛いわ!


「ちっ、使えねぇ道具を持っている奴は、やっぱり使えねぇか!おい、てめぇ、よくも俺を騙しやがったな!」

「ガバルト様?」


「ああ?コイツはなぁ、大胆にも俺をまんまと騙しやがったんだ。このイヤリングは魔道具でも何でもねぇ、ただの装飾品。しかし、魔道具のように見せかけていやがった。たいした女だぜ。忠義か?馬鹿が。そんな物、いいように使い潰されただけじゃねぇか!」


何なの、この男。

なんか、女性を怒ってるように見えるけど、憐れんでるようにも見える。純粋な悪人じゃない?

「おい、コイツはもう、助からねぇのか?」


「はい、大毒おおどくネズミの毒は、一時間以内に解毒剤を処方しなければ、全身に回った毒で高熱が出て、あとは激しい嘔吐の後、死に至ります。すでに高熱が出ていますので、手遅れです」


何ですって?!

ああ、オルデアンちゃん、落ち着いて!

オルデアンちゃんがテリアさん?のところに、今にも駆けつけようとしてるから、必死に止めたのだけど。

不味いわね。これ以上、オルデアンちゃんを留めるのは限界だわ。


「……おい、引き上げるぞ、時間をムダしたぜ。女は放っておけ。どうせ、助からねぇ」

「「「は!」」」


ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、ざっ、……



黒装束達はテリアさんを置き去りにして、木々の奥に消えていきます。


あ、オルデアンちゃんが駆け出して、テリアさんのところに!私も直ぐに後を追ってって?ヒューヒューって北風小僧がコンニチワして、冷え症の 実施中って、洒落になんなーーーーーーい?!

寒すぎだわ、なんじゃこりゃです。

久方ぶりに【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】を抜けたら、そこは雪国でした。

ううう、我慢、我慢、オルデアンちゃんもジャージしか着てないですから、かなり寒い筈、って、オルデアンちゃんが懇願するように私を見て、!涙がポロポロって!!!

……っ、寒さごときに震えている場合ではありません。

テリアさんを助けねば!


………でも、どうやって?


取り敢えず、【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】を拡張しましょう。

【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】は効果として、体力回復があったんでした。

さっそくって、また、あの白鳥の湖を踊るの?!


はぁあああーーっ


ああ、思いっきり、ため息をしちゃいました。


また、幸せが逃げていくようです。

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