第37話 ネズミ?

◆ヒューリュリ視点


あるじ、せっかく狩ってきたのに、元の場所に戻してこいとは、あんまりなのだ』


せっかく旨い、大毒おおどくネズミを狩ってきたと言うのに、あるじは何時も我に辛く当たるのだ。はぁ、カミカミしたい。


我はその日、あるじの指示で毒ネズミを狩った場所である、神の森外縁の林に、大毒おおどくネズミの死体を処分しに来ていた。しかし、ただ捨て置く訳にはいかない。遺体をそのままにすると、春の呪いでアンデッドになり、再び神の森の動物達を襲い始めるからだ。かつては、そのような心配は無かったのだが、人間共が【偽善の春】を作り出した時から、死体をそのまま放置すると、アンデッドに変わるようになってしまったのだ。

我ら聖獣の間では、人間が作り出した春のせいだとし、アンデッド化するのは【春の呪い】と言われている。まったく人間共は、ろくでもない。


ズルズルッ、ズルズルッ、ズルズル

『ふう、あるじも、勿体ない事をする』


大毒おおどくネズミは毒の部位である爪部と、先端にトゲのあるシッポを切り離せば良い食肉となる魔物。

人間達でも好んで狩りをする、数少ないご馳走でもあるのだ。



我は、大毒おおどくネズミがアンデッド化しないように、風の魔法で大毒おおどくネズミを切り刻む。アンデッドは燃やすか、一定以下の大きさに切り刻めば、アンデッド化を防ぐ事ができるのだ。

『風切り!ウインドカッター!!』


バスッ、バスッ、バシュン

ほとんど、輪切りにしてやった。これでアンデッド化はあり得ない。あるじ、ご命令は完遂しましたぞ。カミカミしたい。

む、聖獣の雪ウサギが足元に?何か、伝えたい事があるのか?

『神ノ森守護者、フェンリル様二申シマス。ソノ毒ネズミ、人間達ヲ神ノ森ニテ襲イマシタ。ソノ為、大勢ノ人間達ガ襲ワレタ人間ヲ捜シ、神ノ森二入リ込ンデ来テオリマス。ソノ大毒おおどくネズミ、人間1人ヲ喰ライ、1人二怪我ヲ負ワセ、1人ヲ森二迷ワセマシタ。ソノオ陰デ、仲間達ガ入リ込ンダ人間達二狩ラレテオリマス』


『何だと?!己れ、人間共!』

うぬ、またしても人間達が、我が神の森の聖獣を狩っているだと!?許さぬ!許さぬぞ!我が入り込んだ人間達を捜しに行こうとすると、雪ウサギが、首を振って我を止めた。どうゆう事だ?


『何故止めた?』


『違ウノデス。過ギタ事ハモウ、イイノデス。タダ、ソノ大毒おおどくネズミヲ、私達二欲シイノデス。私達二ハ、ソノ権利ガアリマス』

成る程、権利か。それを言いたいが為に、大毒おおどくネズミのおこないを暴いたか。この雪ウサギのスキルは【思念読み】。残る思念から、生前の思いを読み取る特殊スキルを持っている。それは、雪ウサギの生存の為のスキル。


『よかろう。その大毒おおどくネズミは、お前達の群れにやろう。おるのだろう?その先の雪の中に』

『……気ヅイテオリマシタカ、申シ訳ゴザイマセン』

雪ウサギは群れで生活する。単独でいる事はありえない。ふむ、見ると十羽ほどの小さな群れだ。食べ盛りの子ウサギに、大毒おおどくネズミの肉を食べさせたかったのだろう。


『構わない。では我は行くぞ』

成る程、あの大毒おおどくネズミは、人間を襲っていたか。雪ウサギは人間には構わないと言っているが、多くの人間が神の森に入り込んでいるなら、この先、何か問題が起きるかもしれん。少し牽制をしておくか。

我は走りだし、神の森外縁を見回る事にした。

この神の森には聖獣は居るが、強い魔獣も住む森だ。だから人間達は、遭難者がいても大抵は諦める。捜しに入った人間が、魔獣に襲われるリスクがあるからだ。それを知っていながら神の森に、多くの人間が入ってくるとなると、迷っている人間は、よほど高貴な身分の人間であるといえる。

む、何か、忘れているような……まあ、よいか。取り敢えず外縁を見回り、人間達を牽制しておかねばなるまい。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



◆カーナ視点


はぁ、一時はどうなるかと思いましたが、ヒューリュリ様に、大毒おおどくネズミをお返し願いました。

まったく只でさえトラウマなのに、あんなにデカイを私の目に触れさせるとは、カミカミを取り上げた嫌がらせ?かと思っちゃったじゃないですか。あんなのが旨いの?。どうもヒューリュリ様の味覚感覚は、私とは欠けはなれているようです。

あら?オルデアンちゃんが、驚いた顔でヒューリュリ様を見送っているわ。


「あの、カーナ様?先ほどの白きけものさん、どうされたんですか」

「ああ、あの白きけもの?さっきのワンコの事かな。さっきのワンコなら、名前がヒューリュリ様と言いますよ」


「ヒューリュリ様?というお名前ですか。今日は、お泣きにならないのですね」

「あら、そうね。あの方、ちょっと泣き虫だわね」


あーあ、ヒューリュリ様。オルデアンちゃんに、すっかり、泣き虫イメージが付いちゃったようね。まあ、本当の事だから仕方ないけど。

「いったいどうしたんですか?」

「うん、何か、デッカイネズミを持って来たから、返してきなさいって言ったのよ」


「デッカイネズミ……」

あら?

オルデアンちゃん、何か、急に震え始めたわ。一体、どうしたのかしら?


「オルデアンちゃん?」

「あ、いえ、だ、大丈夫、です。あれ?」


オルデアンちゃん、震えが止まらず、冷や汗まで出てるわよ?!まさか、オルデアンちゃんもドブネズミがトラウマなの!?

「オルデアンちゃん、もしかしたら、あのネズミが怖かったの?」

「?!わ、わかんないです。身体が……勝手に震えて……その、夢で……」


「夢?」

「は、い。何だか、夢に出ていた魔獣に似ていたので、急に怖くなって……」

これ、もしかしたら、本当にあった事かしら。さっきのネズミに、オルデアンちゃんは会った事がある!?オルデアンちゃんの意識が 朦朧もうろうとしてる時に、会っているのかしら。馬車が森の中で事故に合って、バラバラに壊れていたって言ってたわね。しかも、一緒にいた人達が居なかった。

さらに、馬車が血ダラケだったって言ってたわ。

あのネズミ、馬並に大きいし、馬車を襲ったんじゃないかしら。オルデアンちゃんが覚えていないから分からないけど、あの大きさなら馬も人も襲えちゃうわよね。万が一だけど、その時に馬や人を襲って食べたとか?

ひぃ!?

じゃあ、あれが旨いって言うヒューリュリ様。間接的人食になっちゃうんじゃ?!

あら、オルデアンちゃん。ようやく落ち着いたようだわ。んん?私を怖そうに見てる??ど、どうしたのかしら。トラウマが悪化した!?

え、左手で口を押さえ、目を見開いて私を震えながら指差し始めた?!ま、まさか、私の背後霊が見えてるとか?

い、いや、きっとしんぶーんって、陰気な情報誌を配っている男が背後にいるとか?

一回読むと一年、寿命が縮むやつ。

どーしよーっ!


「オ、オルデアンちゃん?一体、何が!」

ヤバい、後ろ振り向いたら呪われる?!




「あ、ああ、きゃああああーーーっ?!」







ガサッ

「おい、今、ガキの声が聞こえたか?」

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