第35話

◆とある神の森の外れ

怪しい黒装束達の野営地


ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ


「ガバルト様、只今、女を連れてまいりました」

「入れ」


ガバルトのテントには、二人の男に引き連れられた20歳代と思われる茶髪の女性が入ってくる。上等なシックなドレスを着ていたようだが、あちこちが破れ、汚れている。右腕を左手で押さえており、怪我をしているのか、服に血がにじんでいる。


「お前が、テータニア皇国第三皇女の侍女か?」

「……………」


ガバルトが、上座の席に足を組みながら女性に問うが、女性はうつむいたまま無言である。ガバルトはしばらく、うついた女性を隅々まで観察していたが、あるところで目を止め一瞬、凝視する。


スッ

ガバルトは立ち上がると、うつむいた女性に近づく。だが、女性は下を向いていてガバルトが側に来るまで気づかない。


「これは追跡の魔道具だな?」


ガバルトは女性に近づくと、女性に聞こえるように言う。その言葉に女性は、うつむいたまま目を見開く。


ビッ、ブチッ「いっ、あ?!」

ガバルトは女性のイヤリングを、無理やり引きちぎる。


「だ、駄目、返して!きゃあ!?」バシッ


突然慌てて、そのイヤリングを取り返そうとする女性。それをガバルトは、手でいなす。


「方向と生死の確認が出来る魔道具……なるほど。姫は生きていると」

「…………くっ」


悔しそうに震えながら、床に這いつくばる女性。ガバルトは、しずくの形をしたイヤリングを右目に当てながら、そのイヤリングを確認する。イヤリングは淡い光を放ち、絶えず青く輝く。そしてガバルトがイヤリングをかざして辺りに向けると、ある方向だけ、イヤリングは強く輝いた。


「……こっちか……ふん」

「ガバルト様?」


茶髪の部下がガバルトを呼ぶ。ガバルトはニヤリとすると、部下の方を見る。


「どうやら姫は、まだ、神の森に居るようだ。作戦を継続するぞ」

「「「「はっ!」」」」


部下に作戦継続を伝えたガバルト、イヤリングを眺めながら呟く。


「姫さん、今からお迎えに参りますよ」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



◆とある神の森の開けた花園

カーナ▪アイーハ視点


ログハウスから出て、花畑の一画に降り立った私、カーナ▪アイーハです。え?なんで、ログハウスから出て来たのかって?

そこはお察し下さい。


ところでこの花畑、菜の花を中心に咲き誇っておりますが、何となく違和感があります。その違和感ですが、今、分かりました。ここには虫さんが居ないのです。蝶々さん、蜂さんが居ない花畑。なんて寂しい花畑なんでしょう。そして虫さんが居ないなら、お花が自分で増える事はありません。

受粉出来ませんからね。

んん、これは由々しき事態。対策を考えなければなりません。でも、どうやって?


「あれ、おかしいですね。何か、忘れているような?」

あるじーっ、只今戻ったのだ!ちゃんとカミカミも持って帰ったのだ!褒めて欲しいのだ!』


むむ、何でしょう?忘れている事を思い出せません。勿論、ヒューリュリ様の事ではありません。


あるじ、一緒なのだ!一緒にカミカミするのだ!』

「うるさいですよ、亜空間収納!!」


ヒュンッ

『あ、あるじ?!カミカミがカミカミが、我のカミカミが消えたーーーっ!?』


わからない。忘れている事が分からないです。ある意味、不味いですね。若年性痴呆でしょうか。


『おーんっ、おん、おーんっ、我のカミカミが、我のカミカミが消えたのだーっ、悲しいのだーっ?!』


ここはうるさいですね。ログハウスのちゃぶ台に戻りましょう。


パタパタパタパタパタパタッ


あら、女の子がドアから出てきましたね。此方を見て、笑顔で手を振っています。

可愛いいですね。

はぁ、小さな恨みは忘れましょうか。

明日になれば、またご褒美スキルが使えますものね。


御使みつかいさまーっ!」


御使みつかい様ですか。

此方を向いて言っていますから、私の事なんですかね。でも何で御使みつかい様?

んん?

はて、何か忘れていた事を思い出せた様な?


「み、御使い様!本当に有り難う御座います。神様の食べ物、美味しかった!」

ピクッ

むむむ、額に青筋が立ちましたが、気のせいでしょう。はぁ、ここは深呼吸をして、彼女と対峙しましょう。私は大人、私は大人。


「はい、おはようございます。素敵な朝ですね。それでは一度、家に戻ってゆっくりお話しましょうか」

「あ、あれ?御使い様の言葉が!?」


ん、やっと忘れていた事を思い出せました。

私、もう女の子と話す事が出来るのでした。

スキル▶言語理解がパッシブで発動中です。

ご都合主義、万歳です。

「ねぇ、貴女あなた?私の事を御使みつかい様って呼んでます?」

「はい。御使みつかい様!」


なんですかね、御使みつかい様って?

まあ、いいですか。後でゆっくり聞きましょう。

「コホンッ、ええっと。其では、お家の中でお茶でも飲みながら、色々とお話しましょうか。ね?」

「は、はい、御使みつかい様!」


前に【ほうろく】が無いから、お茶作りが出来ないと言っていましたが、実は身近なフライパンなんかでも、簡単に作れます。その秘訣は、低温でじっくり加熱して、高温で焙(ほう)じ上げること。こうすれば「ほうじ茶」の出来上がりです。

亜空間収納内のキッチンセットにフライパンは有りますので、バッチリですね。


こうして私達は、ログハウスのちゃぶ台のところで、お互いの事を話し合ったのでした。



あら?また何か忘れているような……気のせいですかね。



あるじーーーーーーーーーーっ』



◆◆◆



◆ログハウス内

オルデアン視点


今日、御使みつかい様と会話できるようになっていたの。

嬉しい。

それから私、御使みつかい様と色んなお話をしたの。そしたら、御使みつかい様がお名前を教えて下さったの。


「あの、御使みつかい様、私の名前は、オルデアンと申します」

「あら、あら、ご丁寧に。私は愛原かなえカーナ▪アイーハといいますよ」


「カーナ▪アイーハ様?」

「んん?あら、やっぱりニホンの本名は勝手に変換されてしまうのね」


「ニホンのほんみょう?」

「ええっと、正式な名前みたいなものでしょうか?此方では発音が違うのか、別の言葉に変換されてしまうみたいです。だから、カーナ▪アイーハでいいですわ」


カーナ様は、この良い匂いのお茶を小さなコップで飲みながら言われたの。私には、手のひらサイズの小さなお鍋で出してくれた。私には聞き取れない別のお名前があるとの話しで、妖精ニホン語?みたいな事をおっしゃったわ。

それからカーナ様は、ニホンと言う妖精の国から突然こちらに来られたらしいの。スプリング▪エフェメラル様の 御使みつかい様ではなかったわ。そして、妖精の国に帰る方法が分からないみたい。


だから私、お伝えしたの。

一緒に私の国、テータニア皇国に行きませんかって。

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