第34話 ご褒美セットと盗賊?

◆カーナ▪アイーハ視点


スキル▪▶ご褒美セット、これは一日一回、限定のご褒美。

大事に大事に、使わなければなりません。

前回のドーハの悲劇じゃなくて、あの悲しみを繰り返さない為にも、発動は注意しなければなりません。

慎重に慎重にであります。


まずは、女の子です。

二度と、あのカエル達の【おねだり】踊りは見たくありません。

私が顔無しになっちゃいます。

あー、あー、って。

とにかく、石橋を叩いても渡らない、くらいの体制で望みましょう。

そろり、そろり、抜き足差し足忍び足です。


あ、因みにこの『抜き差し差し足忍び足』の語源、一説によると将軍などの命令を受けた忍者が隠密行動をする際に敵に発見されないようにと、編み出されたのが「抜き足差し足」で、その事を「忍び足」と呼んだんですね。

泥棒の事じゃなかったんですよ。


さて、そんな事はどうでも良くてですね。

まずは、女の子の様子です。

キィッ、ちょっと寝室のドアを開け、中の様子を確認中。

よく眠っています。

これなら大丈夫でしょう。

しかし、やっぱり可愛い子ですね。

王子様を待つ眠り姫のようです。

本当にお姫様だったりして?

服はジャージですが。


パタンッ

ふっ、ここからは誰にも邪魔はさせないわ。

ありのーままのー姿~見せるのよーっ♪

私はくるくる回って、ゆっくりと私専用ちゃぶ台の前に舞い降ります。

おっ、ほっ、ほっ、ほっ、さぁて、さぁて、至福の時間。

苦節、一日?にしてついに私のご褒美です。

それではさっそく始めましょう。

「あぶらかたぶら私のご褒美、ピチピチプリンお出でませ、スキル、ご褒美セット!」


ボフンッ


「ゴホッ、ゴホッ、うう、毎回この催涙弾みたいな煙り、勘弁してほしいです、ゴホ」


またまた、白い涙が出る煙りが出ました。

本当に玉ねぎ臭い煙りです。

なんか、悪意を感じます。

私は手で煙りを扇ぎながら、何とか、ちゃぶ台の上を凝視します。

や、やっと玉ねぎ煙りが晴れました。

ついに、ついにピチピチプリンの白い六個入りの箱が私の目の前にあります。

この玉ねぎ臭い煙りで、涙に濡れた日々は無駄ではなかったのです。

ああ神様、ありがとう。

私の人生は、この時だけにあったのですね。

神に祈りを!


ふうっ、まずは落ち着きましょう。

そして、手を広げて走るマラソン選手のマーク、クリコ印の箱に手をかけます。

カパッと開いたら、黄金色のカップにご対面ーっ。

このビチピチプリン六個入りは、なんとセット販売限定の10パーセント増量、ちょっと大きめカップが使用されてるんです。

くっ、ここまで私を喜ばすとは、ご褒美セットさん、最高です。

さあ、今度こそ、いただきましょう。

はい、カップの梱包を取りまーす。

はい、カップのフタを開けまーす。

はい、プラスプーンの袋を外しまーす。

はい、プラスプーンを取り出しまーす。

はい、「いただきます」を言いまーす。

はい、プラスプーンでビチピチプリンをすくいまーす。

はい、匂いを堪能たんのうしまーす。

はい、甘いとろけるような匂いにウットリしまーす。

はい、お口を開けまーす。

はい、お口の中にス


バタバタバタッ、バタンッ

「御使い様ーっ!!」


はい、お口の中にスプーンを


ぐぅーーーーーっ

「御使い様ーっ!お願いです。その神さまの食べ物を私に下さいませ」さっ


はい、お口の……


「お願い、お願いします。オルデアンはいい子にしますから、その……神さまの食べ物が欲しいのです。どうか、食べたいのです。お願い、お願い、お願いですーっ」



…………………………っ



恐れていた最悪がまた再びですが、し、仕方有りません。

ここは、箱を隠しながら被害は最小限に押さえる為にも、この一個は犠牲に差し出しましょう。

はい、どうぞ。


「あ、ありがとう、御使い様。スプリングエフェメラル様、感謝いたします」


あら、この子、もうスプーンは使わないのね。

丸ごと、カップ越しにお口に入れてしまったわ。

はしたない子!

きっとこの子は、スープの中にパンを入れて食べる子なんだわ。

保護者のおじいさんが家庭教師のCMばかりに出ているのがいけないのよ。

後でしつけが必要ね!

わたくし、ロッテンマイヤーがきっちりと教えて差し上げます。

え、なんですの、そのもの欲しそうな顔は?

その手は何?

もう、ピチピチプリンは有りませんよ!


「み、御使いさまぁ」


そ、そんな、泣きそうなお顔で言われても、もう、有りませんよ!

駄目です。


ぐぅーーっ


………………っお腹を空かせた子供が手を出しております。

うう、その手を払いのけるような鬼畜には、さすがに成る訳にはいきません。

おりゃあ、今日も大盤振る舞いじゃ、何でも持ってけーーっ、しくしくしく。


「ああ、御使い様、ありがとう」


はあ、そんな笑顔を見せられたら、もう、諦めモードです。

これ以上、此処に留まれる筈もありません。



「あ、御使い様、どちらに?御使い様ーっ!?」





パタパタパタパタパタパタパタパタッ



上を向ーいて、空を飛ぼーうよ。♪


(ワワワワワーン)注、バックコーラス


涙が、ない、よーに。


(ワワワワワーン)注、バックコーラス


思い出すー、はーるの日ー。


(ワワワワワーン)注、バックコーラス


ひとーりぼっちの朝ーーーーーーっ


(ワワワワワーン)注、バックコーラス

(ボボンッボンッボン)繰り返し


(注、バックコーラスはダークタックスの皆さんでした)


「わあああーーーーーーーーーーん!!!」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



◆とある神の森の外れ


雪深いとある木々の中、数人の黒装束の男達がテントを張り、野営をしている。そこに馬に乗った黒装束の一人が、到着する。馬上の黒装束は馬を降りると、奥の大きめのテントの中に入っていく。中はドームテントのようで意外と広い。モンゴルの遊牧民が使うゲルと呼ばれるテントに近く、しっかりとした作りながら移動が容易い骨組みをしている。


「ガバルト様、只今戻りました」


小型簡易式の暖炉のようなところに、甲冑と毛皮が半々のアンバランスな服を着た目の鋭い男がおり、到着した黒装束を睨む。ボサボサ黒髪の長髪である。その男が茶髪の男に問う。

「王女は見つかったのか?」


黒装束はローブを取って顔を晒した。20代の茶髪の男だ。

「申し訳有りません。未だ、見つける事が出来ません。しかし姫の侍女だった者を、先ほど部下が捕らえたとの……?」


ガンッ

「かは?!」

茶髪の男は、最後まで言いきる事が出来なかった。茶髪の男は言いきる前に、黒髪の男に蹴り飛ばされていたからである。


「くそが、分かってるんだろうな!?失敗したら本国のお前らの家族がどうなるか?」


「げほっ、げほっ、わ、分かっており、ます……」

蹴り飛ばされた男は、床に転がり血ヘドを吐いた。蹴りをした男は、上座の椅子に腰を掛け直し、何か、時計のような物を見ている。


「……それで?姫の侍女を捕らえたと言ったか?」

「は、はい。皇国の街道近くの林を、一人で歩いているところを捕まえました。どうやら魔獣に襲われたようで、腕に怪我をしておりました」


「何だと!?」

茶髪の男からガバルトと呼ばれる男は、今一度、茶髪の男を睨む。


「姫の馬車は、魔獣に襲われたのか?」


「分かりません。なにぶん、侍女が喋ろうとしませんので……」




ガバルトは暫し思案すると、茶髪の男に振り向いた。


「その侍女を連れてこい!」

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