第32話

カーナ▪アイーハ視点


ピロンッ

『レベルが11になりました。【銀色の羽根】が解放されました。スキル【言語理解】を獲得しました。スキル【花召喚】が解放されました。スキル【バスタブ温泉セット】がお煎餅せんべいの家に統合されました』


おお、レベルが上がったら、いろいろとバージョンアップしたようです。


ええっと?【銀色の羽根】、【花召喚】は、VRゲームでありましたから分かります。


【銀色の羽根】は回復スキル。

ゲームでは、悪い魔獣から逃げてきた動物達を回復してあげるイベントがあったんです。

回復してあげると、動物達が色んなアイテムをくれるんです。

例えば、熊のぷータロウさんを助けると蜂蜜をお裾分すそわけ頂けたり、ウサギさんを助けると、うな重を頂けます。

ウサギさんからさんの、うな重?

色々とご批判はお有りでしょうが、こんな感じでしょうか。

ああ、『象が踏んでも壊れないフデバコ』、『スーパーカー消しゴム』など、いらない物もあるんですが、結構有りがたい物もありまして、この銀色の羽根はイベントを進める上で、かなり重要であるといえるでしょう。

でも、『コーラの匂い消しゴム』は、結構、気に入っていましたよ。


【花召喚】は、その名の通り、お花の咲いた状態での召喚が可能になります。

既に出来ていたスキルですが、正式スキル名の記載になっています。

基本的に初めて召喚する花は、種、球根、苗木なのは変わりません。

ただ、一度咲かせた花は、その後は咲かせた状態での召喚が可能になります。

確か召喚可能な花の数は、無制限だったと思います。


また、バスタブ温泉セットが【お煎餅せんべいの家】に統合されたのは良いとして、問題は【言語理解】です。


【言語理解】、名前からして相手の言葉が解るようになる、有りがたいもののように思えます。

むむ、その通りなら、勉強せずに外国語が分かるということですかね。

ま、まさか、そんな、あれほど苦しんだ大学時代の第二外国語、ズールー語も解っちゃうって事ですか?(注、ズールー語が第二外国語になる事はありません)

私ったら、『サウボナ』しか解らなかったんですよね。

駄目じゃん!


ナーンツィゴンニャー! マバギィーツィババー!(父なるライオンがやってきた!)


とにかく、外国語に弱い日本人にとっては夢のスキルです。

そこの君!

このスキルが有れば、明日から駅前留学は不要です。

英語の先生を見返してやろう。

アイアムアペン私はペンです

アイアムアアップル私は林檎です

ジャイアントババはアッポウ。

あとは、女の子が起きるのを待って、言語理解を試してみましょうか。


ところで、昨日は雨でも降ったんですかね?

ログハウスのドアを開けて外に出たら、デッカイ水溜まりがありましたよ。

1センチ位ですかね。

結構、水深がありますよ。

でも変ですね。

この【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】直径50m内に、雨や雪が入り込む事はないはずなんですが不思議です。

だって、私がジョウロでお水を上げてますもの。

そもそも、この水溜まり。

ログハウスのドアの前にしかありません。

いくらなんでも、こんなピンポイント降雨なんて、異世界でも非常識です。


ふう、まあいいです。

そろそろ、朝食の用意をしなければなりません。

今は一人ではないですしね。

家主としては、それなりに、もてなさねばなりません。

まして、彼女はまだ子供で、私は大人(精神的)ですから。


ん?


なんですかね。

花畑の合間に白いズタ袋?

あんな所にゴミを置いた覚えはないですけど。

美観を損ねますね。

かといって、私の力では撤去できる量ではありません。

けれど、何のゴミでしょうか?

近寄ってみましょうか。

んん?

なんかデジャブですかね。

前にこの状況は、体験した覚えがあります。

と、いう事は、あのゴミの正体は……はぁ、昨晩、帰って来なかったと思いきや、一体何処を歩き回っていたのですか、ヒューリュリ様?

私はゴミ……ではなく、ヒューリュリ様の前に降り立ちます。


「ヒューリュリ様、生きてます?」


ごそごそっ、ヒューリュリ様がフラフラと頭を持ち上げます。

まったくもう、毎回、汚れ絨毯じゅうたんでどうするんですか。

これじゃ、ご褒美を上げた意味がないですよ。


『……………………あるじ……』


って、また濡れネズミじゃなく、濡れフェンリルになってますよ。

本当に世話が焼ける。

あらら、涙が止まりませんね。

また、情けないお顔になってますよ。

ほら、ほら、男なんだから涙を拭きなさい。


あるじ一昨日おとといに戻れなかったのだ。あるじの命令を守れなかったのだ…だから、許して欲しいのだ』

「は、何を言って?」


『昨夜、あるじが我に言ったのだ。「一昨日おととい来やがれ」と。だから我は一昨日おとといに戻る方法を探していたのだが、見つからなかったのだ』


え、それって昨晩の話?

そう言えば、夜間にけたたましくドアを叩いた不届き者がいましたね。

じゃあ昨晩ドアを叩いたのは、ヒューリュリ様だった?

すると、ヒューリュリ様がズタ袋になっている理由は、私のせい?!

はあ、間が悪いですね。

私は頭を抱えながら、ヒューリュリ様にお伝えします。


「あの……ヒューリュリ様、その話は忘れて下さい。いいですね?」

『もう、一昨日おとといに戻らなくてもいいのか?』


「はい、もう、いいです」


私はヒューリュリ様のお鼻をポンポンして、にっこり笑います。

はい、これで全部忘れましょうね。

私は悪くない。

私は悪くない。


あら、ヒューリュリ様。

急に元気になりましたよ。

ヒューリュリ様って、単純でいいですね。

なんかニコニコして、私が出して上げた骨もどきを、私の前に持ってきます。

うえっ、ヒューリュリ様のヨダレが一杯付いて、糸引いてません?

って、なんで私の前に置くかな。

ありゃ、ブンブンと物凄く尻尾を振っていますよ。

扇風機ですかね。


『カミカミするのだ、あるじ

「は?」


今、なんて?


『一緒にカミカミするのだ。カミカミのカミカミによるカミカミの為のカミカミなのだ』

「ヒューリュリ様、一体何を言ってるのか、解らないのですが……」


ヒューリュリ様は、あのヨダレだらけの、私がご褒美に上げた骨もどきを、さらに私に近づけ……って、バッチイから?!!


あるじとカミカミしたいのだ。カミカミしてカミカミがカミカミするとカミカミになってカミカミならカミカミなのだ』


あの、意志疎通は出来ているんですが、言っている意味がまったく解りません。

ヒューリュリ様が壊れた?!


「カミカミって、その、私が上げた骨もどきを私が一緒に噛むんですか?」

『そうだ、一緒にカミカミでカミカミするとカミカミがカミカミになるのだ』


ヒューリュリ様が何やら激白してますが、全然分らないですね。

結局、ヒューリュリ様がおかしくなっているのは、このご褒美に渡した骨もどきのせい?


『カミカミ、カミカミ、カミカミすると、幸せなのだ。カミカミ、カミカミ、カミカミ』


うぎゃっ、顔にヒューリュリ様がベトベトの骨もどきを近づけてくる。

や、めて、止めて下さい。

やめっ


「止めてって言ってるでしょ!海老投げハイジャンプ魔球!!!」


ビュンッ


あ、思わず骨もどきを投げちゃった。


『おお、あるじーーーーーっ、取ってくるのだーーーーーーーーーーーっ!』


ダダッ


「ああ!?って、また、ヒューリュリ様、走って行っちゃった……」



また、どっかに行っちゃいましたね。


今度は何時、帰ってくるのかしら。

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