第20話
◆ヒューリュリ視点
ザッザッザッ
こんなところにも、人間の血が落ちている。
おのれ、人間め。
また、この神聖な神の森に侵入しただけでは飽き足らず、この地に不浄な人間同士の争い事を持ち込みおったな。
許さん、許さんぞ、人間め。
む?まただ。
大勢の人間達の足跡がある。
追い払ってやる。
我はヒューリュリ。
神の
神の森を
我は走り出す。
人間達の臭いのする方向に走り出す。
うぬ?!
一人の人間と、複数の黒装束の人間達が対峙している。
どちらを攻撃するか。
そんなもの、決まっている。
我はすぐに風の魔力を発動した。
風の精霊は、我らフェンリルと生まれ出た時より、共に有る精霊。
その力を、我らフェンリルは自由に引き出して、闘いに使う事が出来る。
いくぞ、人間ども!
「ウインドカッター!!」
シュバッ、シュバッ、シュバッ
三日月状の風の刃が、人間どもに向かっていく。
『ぐあっ、な、なんだ?!』
『ぎゃああ!』、『うわあああ!?』
よし、人間どもが吹き飛んだ。
このまま、森の外に追い立ててくれる!
「出でいけ、人間ども!この地は、我ら聖獣とその眷属のもの。これ以上の
『ばかな、フェンリルだと!?森の悪魔か。くそ、お前ら
ザッザッザッザッザッザッ
我の姿を見たリーダー格の人間が指示をだすと、一斉に黒装束の人間達が、森の外に向かって逃げていく。
ふふん、馬鹿どもが。
あとは、あの一人の人間だけだ。
我がその人間の方に意識を向けると、その人間は血の跡を残して、居なくなっていた。
ふん、いつの間にか逃げたか。
まあいい。
それよりも、ご主人が心配だ。
ご主人の意向に従い、森の見回りを再開したが、あの人間の子供がご主人に危害を加えているのではと、心配で仕方がない。
急ぎもどるべきだが、まだ森の見回りが終わってはいない。
ご主人と約束した手前、それを一方的に破るのは我の本意ではない。
仕方がない。
今しばらく、ご辛抱ください。
ご主人様。
そして走り出した我は、神の森の見回りを、いつもの半分の時間で終わらせた。
ぜは、ぜは、ぜは、ぜは、ぜは、ぜは
さすがに、全力疾走の見回りはキツイ。
これ以上は無理だ。
ふう、さあ、ご主人のところに帰ろう。
◆◆◆
間もなく我は、ご主人の花園に到着した。
いつものように、近づいても花園は見えない。
これはご主人の力で、中に入らないと花園を見る事は出来ないのだ。
しかも、ご主人が許可をした者以外は、花園に入る事も叶わぬ。
なんと凄いお力だろうか。
だが、これ程の力をお持ちのご主人であるが、人間に対しての警戒が薄い。
元人間であった事がそうさせているのだろうが、今のご主人は余りにも常識がなく、無防備だ。
挙げ句、人間の子供にまで許可を与え、花園に招き入れた。
今後は、我がご主人に常識を教えていかねばなるまい。
とりあえず今は、ご主人の無事を確認しなければならぬ。
万が一でも、人間に気を許してはならぬのだ。
我がそのまま進むと、突然、視界が変わり、辺り一面に美しい黄色い花が咲き誇っていた。
ああ、やはりここだけは、かつての神の森の再現よ。
心が洗われる、清浄の空気に支配されている。
流石は、ご主人だな。
うぬ?!
だが、この土地に似つかわしくない者がいる。
人間の子供だ。
だが、ご主人が見当たらない。
どういう事だ?
ああ、ご主人が人間に捕まっている?!
しかも、ご主人が必死に人間から逃げようと、羽根をバタつかせている。
おのれ、人間め。
我が
「あるじ、ご主人っ!」
『?!』
『はっ?!ヒューリュリ様!』
「おのれ、我がご主人を放せ!人間!」
我は再び、風の精霊を呼び寄せる。
人間め、ご主人に救われておきながら、その恩を仇で返すか。
なんと、救いようのない種族なのか。
もはや許さん、許さんぞ人間!
その肉の一片もこの地に残さず、消し去ってくれる。
早くご主人を、我がご主人を救い出さなければ!!
我は全身にその力を
早く早く早くご主人を離せ。
離せ、離せ、離せ、離せ、離せ、離せ、離せ、離せ、離せ、ウオオオオオオオーンッ!
『『『『『お手』』』』』
は?
な、なんだ!?
か、身体が急に脱力する。
あらゆる力が消えて、怒りも消えていく。
しかも、あの人間に無性に前足を捧げたい。
はあ?
何なんだ、これは。
我は我は一体どうなったのですか、ご主人?
▩▩▩
◆カーナ▪アイーハ視点
あああああ、世界がブレる、お
大惨事です。
「ワワワレレレワワワレレレハハハウウウチチチュュュウウウジジジンンンダダダ」
しかも、地震体験アトラクションの体験震度が上がっています。
先ほどは震度6くらいだったものが、現在震度7以上のマックスになってます。
女の子が二人にブレて見えます。
恐らく私も二人になっているのでしょうか。
すると、ここで実が出れば、タブル効果でヤバいです。
ここはなんとしても、ヒューリュリ様を止めませんと、間違いなく
そんな
もう、なりふり構っては要られません。
全力でヒューリュリ様を止めなければ、私の精神が持ちません。
しかし、ご丁寧に下腹を押されておりまして、声が出しにくい状態です。
うう、ガンバです、私。
ああカーナ▪アイーハやさしいきみは、いっけ、みんなの夢、守る為~。
さあ、
危ない!
「「「「「お手」」」」」
はい、なんかエコーがかかった、信じられないくらい大きな声が出せました。
やりました。
ヒューリュリ様がフリーズしております。
大成功です。
ふう、これで私は救われました。
『きやああああああーっ!?』
え、うげこ!?
せっかく緩んだお腹への押し込みが、また、始まってしまいました。
思わずカエルが自動車に轢かれて、潰された時の声みたいなのを吐いてしまいました。
女の子が突然、叫んでおります。
ヒューリュリ様は止まった筈なのに、一体何事!?
あ、ヒューリュリ様が何故か、近づいて参ります。
フリーズしていたはずですが、何故でしょうか。
これでは、女の子を落ち着かせる事が出来ません。
けれど、さっきのケモノ顔ではございません。
普通の優しいお顔です。
いや、頭を下げて舌をだしてって、これは…なんか服従を誓うような、ご主人大好き的な、ワンコ状態?!
あれ?
さっき私、なんて言ってヒューリュリ様をお止めしました?
えーと、えーと、エイトマン。
は!!
私、伏せを言ったつもりが、【お手】って言った気がします。
はああ?!
何ということ!
それでは、女の子を落ち着かせる為に、ヒューリュリ様を止めたはずが、逆に激しく
メダカの学校どころではありません。
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