第13話

◆とある森近くの雪道



ザシュウッ、バシュウッ、バシュウ


二頭立てのソリ付き馬車が、雪道を走っていく。

その後ろには、護衛と見られる単騎の従者。

さらにその後方、数十メートル先には、その馬車を追尾する黒覆面の馬に乗った集団がいた。

その集団の先頭の数人が矢を絞り、馬車と従者に向け、矢を射かける。


バシュウッ、ザスッ


「?!」、ヒヒィーンッ

ドシャッ、ガガンッ

従者の馬に命中し、そのまま従者もろとも倒れ込む馬。

起きあがった従者は剣を引き抜き、黒覆面達を迎え撃つようだ。

馬車は、構わず先に走り去っていき、黒覆面達はふた手に別れた。


「ぐ、ファイアーボール!」

ギイイインッ、バシュウンッ


従者は、馬車を追おうと別れた方の黒覆面集団に、剣を向けて言い放つ。

すると剣の柄の部分に付いている丸い小さな石が赤く輝き、剣全体から火球かきゅうの固まりが現れ飛んでいく。


「「「う、うわあああ!?」」」

「「「ぐわああ!」」」

その炎に、馬車を追った集団は総崩れになり、数人が落馬する。


「が、ち、畜生、魔法剣持ちか?!おい、早く殺せ!」

リーダー格の男が叫び、魔法剣を持つ従者を、矢を構えながら取り囲んでいく。


従者は、馬車が見えなくなるのを確認すると、呟く。

「姫、どうか、どうか無事にお逃げ下さい」


そして従者は、再び黒覆面達に剣を向ける。



「矢を放て!!」

「ファイアーボール!!」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



◆神の森


こんにちわ。

愛原かなえ、こと、カーナ▪アイーハです。


訳のわからない転生から、すでに7日が経ちました。

168時間、経過した事になります。

え、随分正確だって?

はい、ステイタス欄に時計がデジタル表示されております。

しかも現在時間の他に、ゲームスタートからの合計時間がダブル表示されてます。

本来はゲームをやり過ぎないように、3時間ごとに警告点滅するんですけどね。

あ、勿論、このステイタスでは点滅はしませんよ。

転生してからは、ただの時計になってます。

ずっと点滅じゃ、見ずらいですものね。


ああ、それから、シャワールームが出来た事で、私の生活スタイルはだいぶ改善されました。

ベッドは相変わらず有りませんが、シャワーで身体を洗えるようになったので、汗臭さ、泥汚れから解消されました。

しかも、備え付けのシャンプーリンスが某メーカーの海洋深層水を使ったフローラルの香りタイプ。

もう最高で御座います。

見て下さい。

私の金髪、艶々でしょう?

つい先日まで、かさかさ枝毛でお困りでしたが、今は潤いシットリMAXで御座います。

しかも保湿効果が長続き…やっぱり、リンスinシャンプーは、このメーカーに限ります。

さらにさらにですよ、フローラルの香りが爽やかーに持続です。

もう、イタレリーですね。


『ご主人、その強い花のような匂いは何なのだ?ちょっと我の鼻に辛いのだが』


「あらあらあら、ヒューリュリ様には、このシャンプー上がりの良い匂いがお嫌いですの?それは残念で御座いますね」


あら、酷い物言いいですね、ヒューリュリ様。

レディのシャワー上がり、この極上の匂いが分からないなんて、なんて なんでしょうか。

おまけに両前足で、ご自分の鼻を塞いで匂いが臭いとアピールです。

女性に対して、とる行動ではありません。

一応、精神年齢は三十路ですが、身体はピチピチの一歳美幼女です。

もう、ヒューリュリ様とは絶交です。


『ち、違うのだ、ご主人。我らフェンリルや銀狼は、鼻が利きすぎるのだ。だから、刺激的な匂いは、かなり強く感じてしまうのだ』


「ほう、ほう、ほう、ではシャワー上りの美幼女の匂いは、強く刺激的だと?」


『いやいや、シャワー上りのビヨウジョはよく分からんが、ご主人の匂いが強く刺激的と言っているなら、その通りであるが』


あら、ヒューリュリ様?もしヒューリュリ様が人間の姿であったなら、今の発言はかなりの変態発言ですよ。

沢山のヒューリュリ様が、空を飛ぶ事になりますね。


「分かりました、ヒューリュリ様。取り敢えず、そのお鼻に鼻紙でも突っ込んでおいて下さい。そうすれば、暫く凌げると思います」


『ご主人、ハナガミとは一体、なんのかみなのだ?』

「鼻紙は鼻紙です。画用紙でもメモ用紙でもありません。勿論、印刷用紙とも違います」


『インサツ?ご主人、神の話しではないのか?』


「紙?」

『神だが』


「…………」

『…………』


はあ、なんかヒューリュリ様が大きな勘違いをしているようです。

やはり、現物を見せなければ分かりませんものね。


ところで、ついに私は自分の姿を見る事が出来ました。

どうやって見たかって?

勿論、鏡です。

シャワールームに、普通に鏡がセットされておりました。

見た感想?

美幼女です。

北欧系の子供モデル並みか、それ以上でした。

これが自分の姿だと思うと、何ともいえないです。

腰下まである、艶々の流れるような輝きのある金髪。

眉毛も、まつ毛も 金毛きんもうで、まつ毛はとっても長いんです。

紅葉みたいに小さな手と、透き通るようなツルツルの白い肌。

染みもホクロも無いし、産毛も生えておりません。

目は何処までも深く青く、かと言って、人形とも違います。

ちゃんと肌に触れれば温かく、摘まめば、其れなりに痛みがあります。

目を瞑る、舌を出す、目を見開く、ベロベロバーをする、思った通り動きます。

お腹が空けば胃袋が鳴り、ちゃんとおトイレも、その後のスッキリ感もあります。

しかも、長年悩まされた冷え症だけは、ちゃんと引き継がれておりました。

背中の銅色の羽根も触るとちゃんと感覚があり、動かす事も、その動かす筋肉の動きも分かる。

疲れれば倦怠感、味覚、聴覚、視覚、触覚、そして背中の羽根の感触、その全てが確かに私の中にあるのです。

姿を見ていなければ、普通に自分と認識しますが、過去の黒髪、黒目、お肌の老化に悩んでいた私からすると、何、このCGアバター、めちゃくちゃリアルなんだけど的ですよね。

私が作ったアバターだったんですが、自分の身体になってみて、頑張って作っておいて良かったです。

ただ、事前にこうなる事がわかっていたら、もっと大人に作っておくべきでした。

まあ、もはや過去を振り返ってもどうする事も出来ませんが。


取り敢えず私は、この世界の事をもっと知らなければならないと思います。

其れには、恐らくこの世界の人間の事、聖獣の事、あと、怖いけどゾンビやスケルトン、リッチの事を調べる必要があります。


『ご主人、何を考えておいでだ?』


あ、ヒューリュリ様が何か、シッポが垂れて物悲しそうです。

ちょっと自分の世界に浸って、ヒューリュリ様の存在を忘れていました。


「はい?あ、ん~この世界と人間の事?」


『人間…やはり、ご主人は元人間だから、人間に興味があるのか?』


「……そうですね。それは否定しないです。どの様に生活してるのかなとか、どんな文化を持ってるのかなとか、知りたいと思いますね。そうする事で、きっと見えてくるものがあると思うのです」


『見えてくるもの?』



「聖獣達と人間達の共存の世界です」

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