第9話

『そんな、かしこまる必要はないぞ、カーナ▪アイーハ。助けて貰ったのは 此方こちらの方だからな』


「助け?いえ、たいした事はしておりません」

謙遜けんそんしなくても良い。致命傷を負った我の傷が、今は全て癒えているのだからな。そなたの力によるものであろう』


んん、ヒューリュリ様は、私を過分に評価されているようです。

確かに【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】を、四畳半から六畳に広げたのは私です。

ですが、この【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】は元からここにありましたし、別に私が作り出した訳ではありません。

それにゲームでは、【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】は皆が共有する公共性のある場所です。

結構、いろんな動物や虫や鳥などが、時々通過されておりましたし、彼らの体力、傷の回復は次のイベント開始の合図でもありました。

そういえば一番最初に怪我をして来たのは、燐森となりもりの熊さんでしたね。


燐森となりもりの熊さんです。猟師さんにお尻を撃たれてしまいました。傷を直す為に箱庭に入らせて下さい。入らせてくれたら、花を育てるアイテムを上げるよ。イエス?ノー?】


お尻に、大きな✕印の絆創膏ばんそうこうをしたNPCの熊さんです。

その時貰ったのが、このジョウロです。

これが無ければ、お花に水があげられませんでした。

ある意味、強制イベントでしたね。

その後いろんなNPCを助けてあげるイベントに、箱庭は重宝したのでした。

なので【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】を利用して貰う事は、大抵はギブアンドテイクでありましたし、私は皆さんに入る許可を与えるだけの存在で、【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】が私の能力という訳ではありませんでした。

そして、ヒューリュリ様も私の話し相手になってくれるのですから、ギブアンドテイクですし、私がヒューリュリ様の傷を治した訳ではなく、この箱庭の場所の効能に過ぎないのです。

まあ、ある意味、只の温泉ですね。

温泉は、皆さんで利用するのが当たり前ですから、本当にヒューリュリ様の私への評価は過分と言えるでしょう。


「ヒューリュリ様、ヒューリュリ様の傷を治したのは、この場所、【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】です。私の力ではありません。この場所は元々、皆さんで共有する場所ですので、私に感謝する必要は無いのです。ヒューリュリ様は、ご自身の力でここまでたどり着いた。だから、ヒューリュリ様の傷を治したのは、ヒューリュリ様ご自身によるもので御座います」


『なんと、他の者達にもこの場所を使っても良いと、我が守る眷属や他の森の者達の傷を癒しに来ても良いと言われるのか。なんとお心のお優しいお方だ。感謝に堪えませぬ』


「あの、本当に公共の場所なので、どんな方も拒みませんので。あ、でも、私を食べようとする方はお断りさせて頂きます」


『尊きカーナ▪アイーハ様を害する者など、この森に住まう者達にいるはずもありませぬ。それに我が、その様な事、決してさせませぬ』


ん?尊きカーナ▪アイーハ様?


「あの、ヒューリュリ様?急に私の名前に【様】が付いておりますし、【尊き】とは一体…?」

『どうやら我は、貴女様の従魔となったようなのだ。だから、貴女は我のご主人。敬語を使うのは当然であるのだ』


ジュウマ?じゅ馬?そういえば、ステイタス欄に何かありましたね。

ステイタスオープン!

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名前▪▪▶カーナ▪アイーハ(異世界転生者)

レベル▪▶6(?)

種族▪▪▶花妖精(新種族)

羽根▪▪▶銅色

容姿▪▪▶金髪▪碧眼▪白い肌▪長耳

衣服▪▪▶春のワンピース(淡ピンク)

性別▪▪▶女

年齢▪▪▶1歳(寿命未設定)

身長▪▪▶10cm

体重▪▪▶秘密

バスト▪▶絶壁(成長次第)

ウエスト▶これから(さあ?)

ヒップ▪▶まだまだ(ガンバ)

特技▪▪▶タンバリン応援(?)

スキル▪▶亜空間収納

スキル▪▶銅鱗粉【成育空間システム化】

スキル▪▶種▪球根召喚

スキル▪▶【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】直径1m

スキル▪▶テイマー

従魔▪▪▶聖獣フェンリル(個体名ヒューリュリ)

召喚可能▶ガーベラ◇チューリップ◇オオイヌノフグリ◇フリージア◇エーデルワイス(種)

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ああ、従魔となってますね。

という事は、ヒューリュリ様は聖獣フェンリルという種族?になるのでしょうか?

只のハスキー犬では無かったのですね。

私の住んでいたアパートの隣家のおばちゃんがハスキー犬を飼ってましたが、ワンワン吠えるだけで、人語は話しませんでしたもの。

すると、聖獣フェンリルというのは、【人語を話せる】という種類なんですね。

ヒューリュリ様、ちょっと凄いです。


「あの、ヒューリュリ様、確かにヒューリュリ様は、何故か私の従魔になっておりました。ですが、私の事を様付けでお呼びになるのは困ります。私はお偉いさんでは無いので、どうか呼び捨てでお願い致します」


『すまぬ。従魔となった以上、そなたは我の主人なのだ。この呼び方でさせて欲しい』


「ええ?その、あの、出来れば、ヒューリュリ様とはお友達になって欲しいのです。もし、この従魔のせいなら、どうやるか分からないのですが、なんとか従魔をステイタスから削除する事を検討いたしますので」


私がそう伝えた時、ヒューリュリ様は再び涙を流し始めました。

ど、どうしたのでしょうか!?


「ヒュ、ヒューリュリ様、私、何か、泣かせる様な事を言ってしまいましたでしょうか?!」

『カーナ▪アイーハ様、一度、従魔契約した者を従魔から外すのは、【役立たずだから捨てる】という意味なのだが、我はカーナ▪アイーハ様にとって役立たずなのだろうか?』


ええ?!

大変な事になりました。

私は、いつの間にか、地雷を踏んでしまったようです。

ヒューリュリ様が、号泣ごうきゅうをしております。

ど、ど、どうしたらいいの?!

ここは、なんとか、この場を取り繕わねば不味いです。

「ま、待って、待って下さい。私に、そんなつもりはありません。ただ、ヒューリュリ様とは対等な友人関係でいたかっただけで、ヒューリュリ様の事を【捨てる】なんて、絶対にありません」


なんだか、男女の別れ話のようです。

男性経験皆無の私が、ヒューリュリ様を泣かしている絵面……何なんでしょう。


『本当か、カーナ▪アイーハ様。我はこれからもカーナ様の従魔で良いのであるか』


「はい、良いのであります。もう、この事は申しませんので、どうか、お気を鎮めて下さい」

私がそう言うと、ヒューリュリ様は泣き止んでシッポを振り出しました。

完全に只のワンコですね。

なんか大きいのに、小さな仔犬に見えます。

ふう、仕方ないですね。

当分この件は、保留とせざるおえない様です。


は?忘れておりました。


エーデルワイスの種が、召喚済みでした。

これを代償に、ヒューリュリ様の狂犬病の抗ウイルス薬を入手しなければなりません。



はあ、私のベッドは何時になるのでしょうか。

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