第5話

う、は?

ここは何処だ??


われは…そうだ。

我は、森の仲間と眷属を助けようと、森の入り口に向かったのだ。

そして、人間の新しい魔法に敗れた!


おのれ、人間め。

いつも我が森を荒らし、我が比護する森の仲間や眷属を狩っていく。

人間は何時も、森の全てを奪っていく。

許さん、許さんぞ、人間!


しかし今回は、我が負けた。

年々、人間達の力は増すばかりだ。

その力を得る為に、どれ程の生け贄を捧げたというのか。

何処まても罪深い人間共め。


だが可笑しい。

我はかなりの深手を負い、死にかけていたはず。

何故に生きている?


……しかし、我が今居るところは何処だ?

ここは…なんと、清浄な気に溢れた所なのだろうか?!

まるで、お姿をお隠しになられたの土地に抱かれた様だ。


まさか、がお戻りになられたとでもいうのか。

もしそうなら、今度こそ我が命を代償にしても、《あの方》を守ろう。

それが、あの時に間に合わなかった我の贖罪なのだから。


む、これは懐かしい匂い?

今は忘れかけていた、花の匂いだ!


は?

我が辺りを見回すと、そこは小さな花壇があり、見たことのない美しいピンクの花と、小さな青い小花が咲いているではないか。


あり得ない。

神が人間に絶望し、この地を離れていく年月。

花が咲く事など、この森の中では無かった事だ。


世界が冬に閉ざされてからは、人間が作る穢れの春の空間のみでしか、花は生育する事は出来ない。

しかし、穢れた春の空間で育つ花は、毒花のような美しくないものばかり。

そこに漂う空気は、不浄と病を生む。


そして、その不浄と病を治す為に、我が眷属を狙うのだ。

自分達が、それを産み出しているとも知らずに。


ああ、なんと清らかな空間だろうか。

ここではまるで、全てのものが洗われるように、不浄や穢れが消えていく。

本当に、あの方が近くにおられるようだ。


ZZZZZZ


ん?

近くで何者かの、いびきがする?

だが、姿が見えない。

何処から、聞こえてくるというのだ。


んん?

青い小花の上に、何かいる???



◆◆◆



うーんっ、よく寝ました。


何でしょう、この爽快感。

前世でも、ほとんど味わった事がないくらい、気持ちのいい朝を迎えた感じです。

まあ前世では、よく目に隈が出来て、顔色が悪かった私です。

不健康過ぎて、ずっと寝起きは良くなかったのでしょう。


それにしても、ん~~っ、気持ちがいいです。

まるで某メーカーの低反発マットに、今だけお得な低反発枕を、サービスセットされたような感じでしょうか。


しかも、このフカフカ毛皮ベッドは、最高の 肌手触はだざわりです。

ミンクベッドでしょうか。

もう、この毛皮から出られる気がしません。


ん?毛皮???


可笑しいですね…。

この【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】の中に、毛皮の生る木は、まだ無かった筈です。

まさか、自然に生えてくる訳もありません。


それにこの毛皮ベッド、なにやら温もりがあるし心音も聞こえ、波打ってます。

はい、ここまでくれば、誰でも判りますよね?


私、多分、何かの動物の上に乗っている様です。

それも、かなり大きな動物の上に、です。

ああ、どんな動物かも何となく想像出来ます。

最近お会いした動物は、1頭様しかおりません。

きっと、あの雄犬さまで御座いましょう。

さて現状、私の置かれている状況が判明した以上、緊急事態回避行動に移行するしかありません。

どっと出る冷や汗の中、私はソロリ、ソロリと毛皮ベッドを離れます。


ところで雄犬さまは、何故に私をご自身の上に乗せられたのでしょうか?

考えられる事は一つです。


【保存食】


まあ、妥当な線ですね。

どちらにしても、毛皮ベッドで 微睡まどろんでいる余裕はありません。

とにかく私は、このような形で死ぬ訳にはいきません。

せめて、この花妖精ゲームをカンストし、クリアーしたら、ボーナス特典で元の世界で目が覚めるか、確認したいのです。


『目が覚めたのか、小さき者よ』


はい、幻聴でしょうか?

それとも、VRMMOの運営からの音声メールでしょうか?

さっそく、ステイタスを確認する律儀な私で御座います。

んん??これは?


▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩

名前▪▪▶カーナ▪アイーハ(かなえ▪愛原)

レベル▪▶4(?)

種族▪▪▶花妖精(新種族)

羽根▪▪▶銅色

容姿▪▪▶金髪▪碧眼▪白い肌▪長耳

衣服▪▪▶春のワンピース(淡ピンク)

性別▪▪▶女

年齢▪▪▶1歳(寿命未設定)

身長▪▪▶10cm

体重▪▪▶秘密

バスト▪▶絶壁(成長次第)

ウエスト▶これから(さあ?)

ヒップ▪▶まだまだ(ガンバ)

特技▪▪▶タンバリン応援(?)

スキル▪▶亜空間収納

スキル▪▶銅鱗粉【成育空間システム化】

スキル▪▶種▪球根召喚

スキル▪▶テイマー

従魔▪▪▶聖獣フェンリル

▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩


相変わらず、バスト、ウエスト、ヒップは変わり有りません。

残念です。

しかも、運営からのメールも有りません。

まあメール欄そのものも、引き続き有りませんが。


はぁ、私が現実に戻れるのは、何時になるのでしょうか。

でも、やはりお亡くなりの上、異世界転生もあり得るのでしょうか。

すでに覚悟した身ですが、まだまだ現世に未練がある私です。


さて、ステイタス欄の下に幾つか、新しい項目が増えているようですが、意味が判らない内容なので、ここはスルー致します。

え?何でって?

重要なのは、運営のメール欄とバスト、ウエスト、ヒップですよね。

違う?

少なくともバスト、ウエスト、ヒップはお呼びでない?!

はい、そうですか。

判りましたよ。

ただ、スキル欄のテイマーも、従魔欄の聖獣フェンリルも、私には何の事か訳が判りません。

だって花を育てるだけのゲームに、そんなの、出て来ませんでしたもの。

判らないものは、スルーがいいと思います。


『すまぬ、そろそろ話しかけても良いだろうか?』


はぁ、また幻聴でしょうか?

相変わらずステイタス欄には、運営の、うの字も有りません。

困ってしまいました。


は?!

そうでした。

私、今、命の危機なんでした。

何という事でしょう。

呑気にステイタスを、拝んでいる場合では有りません。

早く逃げなければ!

さあ、さっそく逃げましょう。


『…そろそろ、喋ってもいいだろうか?』


もう、さっきからこの幻聴はうるさいですね。

いい加減にして下さい。

私は、そう思いながら、声のする方を振り返り、目を見開きました。


はう!?


何という事でしょうか。

その瞬間、私はあるアニメの主人公?になった気持ちになりました。

どんな主人公ですって?

そうですね。

さしずめ、ジェリーでしょうか?

でも彼はいつも、直ぐに逃げられるネズミ穴が有りましたが、私には有りません。

おまけにフライパンで叩かれても平気なタフさが有りましたが、私の場合、そんな事をされたら、お 陀仏だぶつです。

多分、スプラッター劇場でしょう。

どちらにしても、この目の前に雄犬さまの鼻がある限り、私の運命は定まった様です。

もはや逃げる事は叶いませんが、一つだけ、必殺技を思い出しました。

雄犬さまに通じるかどうか、判りませんが一か八かです。

せーの!



「必殺、死んだふり!」


パタッ、しーん。



「…………」

『……………』

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