第9話 雨があがって…

「雨、あがったな」

倉田大樹が言うと、田中成海は、驚いたように足を止めた。

「そうだね。」

雨はやみ、薄雲のむこうに、夕日が沈もうとしていた。

「なんだか、あの時みたいだな。」

大樹がいうと、成海は、少し首をかしげて、

「小4の時のこと?」

と聞いた。すると、大樹は、パッと明るい顔になり、

「覚えてた?よかった。」

と、うれしそうに笑った。

つられるように、成海も微笑んだ。二人の目が合うと、大樹は赤くなり、

「…じゃあな。また。明日!」

と乱暴に言い、自分の家の方角に体の向きを変えた。


大樹は、10歩程歩いたところで、振り返って口を開いた。

それと同時に成海も口を開いていた。


「ありがとう」

「ありがとう」


「何が?」

「何が?」


あまりにシンクロしてしまった言葉に、二人は思わず笑った。


「俺は、3年前のあの日。耳たぶかしてくれた時の事。本当は、ずっと言いたかったんだけど、恥ずかしくてさ。田中は?」


大樹は一気にそう言うと、自分のつま先を見た。成海は、しばらく黙っていたが、思い切ったように言った。


「ジャージ、ありがと。それから、一緒に帰ってくれて…ありがと。」


成海の言葉に、大樹は顔をあげ、帰った道を小走りに戻ると、成海の手前1メートルの所で止まり、顔を覗き込んだ。


「もう、元気みたいだな。」

「…俺も、いつでも貸すからな。」


成海が、大樹の目を見返すと、大樹は、また、右手で頭をわしゃわしゃかきながら言った。

「耳たぶ。」




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耳たぶかして くるみ @mikkuru

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