第8話 田中成海、と倉田大樹
雨は降り続いていたが、倉田大樹が、傘もささずにさらっと外に出るので、私も仕方なく外に出た。どのみち、傘もないしね。
倉田大樹とは、近所とはいえ、帰り道が一緒になることは、今まで一度もなかった。ましてや、誘われて帰るのなんて初めての事だ。
一体何を考えてるんだろう?
もしかして、さっきの話を聞いていた?それで慰めようとしているとか?
誰にでも優しいキャラの彼ならありえる。でも、出来れば聞かなかった事にして、放っておいてほしい。こんなかっこ悪いところ、見られたくなかった。
顔はイマイチで、胸だけ大きくて、暗い私の事なんて気にしないでくれればいいのに。
学校から家までは、ゆっくり歩いて15分。
彼は、私を気遣ってか、大股でガシガシ歩くいつもの癖をやめて、ゆっくりと歩いている。そんな彼の背中を見ながら、私もゆっくりとついていく。
一緒に帰っているというより、私がストーカーしているみたいだな。
そう思ったら、こんな時なのに、何だかおかしくなってきた。
雨が降る中、ただこうして一緒に帰ってくれる時間が、私のささくれだった気持ちを、少しづつなめらかにしてくれるようだった。
すると、倉田大樹が急に立ち止まった。彼は、自分のリュックサックの中をガサゴソと探ると、丸まったジャージの上着を取り出して、私に向かって放り投げた。
「傘の代わりにして!」
私はあわてて受け止めた。少し迷ったが、本格的に白シャツが雨に濡れてきたのが気になっていたので、ありがたく借りる事にした。
ぐしゃぐしゃのジャージを広げて羽織ってみると、雨の匂いに交じって、倉田大樹の匂いがした。…胸がぎゅっとした。
さすがにジャージは大きくて、リュックサックを前に抱えたままはおると、一人で二人羽織をしているような恰好になった。
倉田大樹は、そんな私の様子をしばらくじっと見ていたが、大きな右手で自分の頭をわしゃわしゃとかくと、また、無言で歩き始めた。
彼の匂いに包まれて歩いていると、まるですぐ隣を歩いているような気がしてくる。
そんな日は、永遠に来ないはずだけど。
そんな日も隣にあるような気さえしてくる。
封印した私の気持ちを、解放する日を夢見てしまう。
緑色の屋根が見えてきた。
奇跡の15分が終わろうとしている。
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